ケース1 結婚して以来ずっと専業主婦で70代になりました。夫から離婚を請求されていますが、夫にも私にも特に資産もなく、今後の生活がとても不安です。

ケース2 浮気をしている夫に耐えきれず別居し、離婚を請求しています。しかし、結婚して退職し、以来専業主婦です。子どもはまだ3歳で、保育園もあきがないようで、仕事探しもままなりません。

財産分与とは
 離婚に際して、夫婦の一方は他方に対して財産の分与を請求することができます。当事者間の協議でまとまらない場合には、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます(民法768条1項2項。具体的には調停か審判を申し立てます)。財産分与の内容・基準としては、民法上、「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める」とざっくりとしか定められていません(民法768条3項)。ただし、1996年の民法改正案要綱(選択的夫婦別姓なども盛り込まれていて、未だ閣法(内閣が提出する法律案)として提出されていません…(涙))では、財産分与についてより詳細な条文案となっていました。すなわち、家庭裁判所は、財産を取得・維持するについての各当事者の寄与の程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする、すなわち2分の1ずつとする、というもの。法改正は実現していませんが、現在の家裁実務では、清算的財産分与では2分の1ずつが原則となっています。
清算的財産分与とさらりと書きましたが、財産分与とは、3つの要素がある、と説明されます。清算的財産分与すなわち婚姻中に夫婦の協力で形成した財産の清算、離婚後の扶養(扶養的財産分与)、慰謝料の3つです。
しかし、通常「財産分与」といえば清算的財産分与を前提にしていることが多いように思います。慰謝料も財産分与とは別に請求することが一般的です。

扶養的財産分与が認められる場合
ただし、財産分与で考慮する「一切の事情」(民法768条3項)には、当事者の年齢や心身の状況、収入等も含まれ、病気や高齢で経済的自立が困難な場合に、離婚後の扶養としての財産分与が認められる余地があります。清算的財産分与や慰謝料が支払われてもなお生活に困るというときに認められるものといわれます。
専業主婦でそう簡単には仕事が見つからないから、離婚後も扶養してもらえないものか…という相談を受けることがあります。気持ちはわかりますが、家裁実務上はそんなにたやすくは認めてもらえません。
裁判例では、婚姻期間52年のうち40年もの間不貞相手と同居し妻(73歳)と別居している夫(77歳)の離婚請求を認めた事案で、実質的共有財産として認められるべきものはないけれども、夫側は家族で会社を経営する等「少なくとも平均以上の経済生活を送っていることが推認される」一方、妻には年間110万円余りの厚生年金の収入しかなく、高齢で自活能力も全くないことから、慰謝料1,000万円、不貞相手からの慰謝料500万円のほかに、老後の扶養として一括金1,200万円を認めた判断があります(東京高判昭和63年6月7日判時1281号96頁)。ただ、これはまだ年金分割制度のない時代の裁判例ですので、これが現在でもスタンダードとはとらえないほうがいいでしょう。
ケース1でも高齢であること等を踏まえ、夫に資産がなくても収入がある場合には、ある程度の扶養的財産分与が認められる余地があります。

子どもを監護する主婦の場合
子どもを抱えて離婚後どう暮らしをたてていくか、不安になる専業主婦の相談者は少なくありません。公表された裁判例では一応扶養的財産分与を考慮されるものもありますが、高齢の妻の先ほどの事案に比べて金額はそう高くはありません。
40年以上の前の裁判例で、子ども(3歳ないし4歳)を抱える妻が少なくとも自活能力を得るまでの間、夫の得る報酬の少なくとも3割に相当する毎月3万円の割合による金員を最低3年間払え(合計108万円)としたものがあります(東京高判昭和47年11月30日判時688号60頁、ただし左には主文がなく、判決の内容は榊原富士子・二宮周平『離婚判例ガイド第3版』130頁ないし131頁によります)。
しかし、私の実感としては、最近の実務では、幼児を抱えた専業主婦が離婚を求める場合でも、算定表(2003年3月に東京・大阪の裁判官が公表した養育費・婚姻費用の基準に基づく表)にのっとった養育費が認められる程度で、なかなかそれ以上の扶養までは認められるのは難しい印象があります。

認められている事案では、夫に離婚原因がある場合(有責配偶者である場合)、資力がある場合なども考慮されているようで、事案によりますね。
少なくとも、「離婚後も扶養してもらえて当然」ではない、なかなか厳しいということを踏まえて、資格を取る等、経済的自立を目指す方が現実的ではあります。