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こころのふしぎ なぜ? どうして? 秋月ななみ

2014.04.16 Wed

                      発達障がいかも知れない子どもと育つということ。17

子どもに社会的なルールを教えていくときには、ルールを「そういうものだ」と教え込む側面と、子どもの発想を尊重して自尊心をはぐくむという両面に目配りしないといけないというさじ加減がとても難しい。家で事前に、社会のルールを教えるのはとくに難しく、子どもの発達段階にあったルールの本を探そうとしても、なかなかこれだというものに巡り合えない。そんなとき、今売れているらしい『こころのふしぎ なぜ? どうして?』(原案・執筆大野正人、監修文部科学省教科調査官村山哲哉)はよい塩梅だと思った。

社会的なルールに関して、なかなか子どもに考えさせるようになっている。例えば、「おこりっぽい人と、そうでない人がいるのはどうして?」という質問には、人によって「心のうつわ」の大きさが違うとか、「テレビにでてくるような『せいぎのみかた』ってどこにいるの?」という問いには、現実の世界では正義は一義的には決まらない、「せんそうも『せいぎとせいぎ』のたいけつ」になってしまうことが指摘されている。

それでいて、実用的でもある。例えば、「わるいことをしている大人にも、ちゅういするべき?」という質問には、「ぜったいにダメです。もし、ちゅういした人が、何でもぼうりょくでかいけつする人だったら、どうなると思いますか?」とか。このあたりは、発達障害の子どもがとくにやってしまいそうなことでもあるので、「なんて実用的なんだ」と感動してしまった。

ただ、不満を述べるとすると、結婚や家庭のところである。ここだけは、なんというか、本当に「なぜ? どうして?」の疑問がないように感じられてしまう。

「お父さんとお母さんはどうしてけっこんしたの?」という問いに対する答えは、「おたがいが、おたがいのことを『大切な人』と心のそこから思う気持ち。この気もちがあったから、けっこんしたのです」という。その説明は、

 

こいがはじまりました。

そして、楽しいときがながれ…

ときにはけんかもして…

それでも二人はおたがいを「大切な人」と思い…

こうして二人は、けっこんしたのです。それからは、毎日がしあわせでした。

そんな二人のしあわせの間に生まれた子。それが、あなたです。

 

これにぴったりとあてはまる人もいるのかもしれないが、結婚してからこそが「ときにはけんか」があるのであり、読んだ子どものなかは、「『毎日がしあわせ』なはずなのに、なぜ親は喧嘩するんだろうか?」と悩む子どもはいないだろうかと、少し心配してしまう。なによりも、「大切に思う」と「結婚」、「子どもをもつ」という手続きが必ずしも一致していない人もいる。過半数がそうである国も存在するが、日本では少数派であるがゆえに、もう少し配慮が必要なのではないか。子どもが読むものだからこそ、ちょっとした気遣いが欲しい。

何よりも、「どうして、ウチの家と友だちの家ってちがうの?」という質問には、「しあわせの形が、家によってそれぞれちがう」からと。ふんふんと納得しながら読んでいると、次には「たとえば、たくさんのきょうだいがいる、にぎやかな家にすんでいる子と、きょうだいはいないけれど、おもちゃがいっぱいある家にすんでいる子がいたとします。二人が、すむ家をこうかんしたら、どうなるでしょう?」とくる。家族の違いが、おもちゃときょうだい! 本当に飲んでいたお茶を吹きそうになった。

せめて両親が揃っていたりするとは限らないけれど、家族の数だけ家族のかたちはあるのですよ、くらいのことは言って欲しい。うちの子どももシングル家庭に育っているので、読むと「うちは『普通』じゃないのだ」と思わないか心配である。

「お母さんのつくるごはんは、なんでおいしいの?」に対しては、秘密は多くの時間をかぞくを見ることにつかわれてきた「母の目」、長い間かぞくのりょうりを作るためにつちかわれてきた「母の手」、かぞくへのあいじょうでいっぱいの「母のあい」だそうだが、やはり当然の性別役割分業が前提とされている。

全体的に「なぜ? どうして?」と考えさせる本であるがゆえに、この家族にかんする保守主義に対しては、いったいどうして?、実に惜しいと感じた。

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シリーズ「発達障害かもしれない子どもと育つということ。」は、毎月15日にアップ予定です。

シリーズをまとめて読むには、こちらからどうぞ

 

タグ:発達障害 / 子育て・教育 / 秋月ななみ