エッセイ

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<女たちの韓流・57>「シークレット・ガーデン」~ファンタジードラマの真骨頂   山下英愛

2014.10.05 Sun

 写真1ドラマの好みというのは、案外その人の性格を表わしているのかもしれない。私の場合、ファンタジーものはあまり見ず、時代劇もそれほど好きなほうではない。けっこう好き嫌いが激しくて、つまらないことを基準にして見るか見ないかを決めてしまうこともある。それを性格に置き換えれば、小心者で食わず嫌い・・・?!。そのせいで、とても重要なドラマを見そこなうこともしばしばある。それに対して、どんなジャンルでも、どんなドラマでも抵抗なく見られる人がいる。思うに、こういう人は間違いなく包容力があり、人としての器も大きいに違いない。

 今回取り上げる「シークレット・ガーデン」(全20話、SBS 2010)も、一度、途中で放棄してしまったドラマ。題名からしてファンタジーっぽく、冒頭の10分に耐えられず見るのをやめてしまった。ところが最近、このドラマの大ファンに出会った。食事をしながらうっとりとした表情でこのドラマの良さを語ってくれた。それで、なにがそんなに彼女を惹きつけたのかが知りたくなって、改めて見ることにした。

魂が入れ替わる

 結論から言えば、見ごたえ満点のドラマだった。金持ちの男性と貧しい女性とのラブロマンスというお馴染みのストーリーではあるが、内容が奇想天外、それでいて深い感動の涙と抱腹絶倒の笑いを与えてくれるのだ。主人公はヒョンビン(1982~)扮するロエルデパート社長のキム・ジュウォンと、ハ・ジウォン(1978~)扮するスタントウーマンのキル・ライム。さらに、ユン・サンヒョン(1973~)が韓流スターのオスカーを演じる。オスカーはジュウォンの従兄。韓流スターに上り詰めたことで傲慢この上ないのだが、少しずつ真人間になっていく姿が描かれている。

写真2 男女主人公の階級格差という設定はファンタジーロマンスの定番。格差があればあるほど、非現実的であればあるほど、この二人を結ぶ愛も強烈になるからだ。ジュウォンは若くしてロエルデパートの社長という地位にあり、おとぎ話の中に出てくるような自然豊かで広大な敷地に建つ奇抜な住居に住む(写真)。一方のキル・ライムは、常に危険がともなうスタントウーマンという職業をもち、友人と貧民街のみすぼらしい部屋に暮らす。ライムの体は傷だらけであり、身なりも質素。ブランド品を身にまとったジュウォンのお見合い相手の女性たちとは対照的な存在である。

写真3 そんな二人が出会って急速に親しくなるという非現実的な設定を可能にするために準備された仕掛けが、魂の入れ替わりである。これが二人のあらゆる格差を愛で逆転させる決定的な役割を果たす。詳しい内容はドラマをご覧いただくとして、私が興味深かったことについて触れておきたい。それは、入れ替わった二人を通して言葉としぐさのジェンダーを観察できたこと。韓国語には「私」と「オレ」、「~だわ」と「~だぜ」などの男女による言葉の使い分けはあまりない。しかし、ため口と丁寧語、話し方やしぐさを通してはっきりとジェンダー化されていることに気がつかされる。そこに日本語の字幕を比べれば、日韓の表現の比較までできて一層おもしろい。その上、二人の演技が上手で、本当にジュウォンとライムが入れ替わったように思わせ、爆笑をさそう。

ヒロインの斬新な職業

写真4 ヒョンビンは相変わらず素敵だが、スタントウーマンのキル・ライムを演じたハ・ジウォンはもっと格好良い。そのアクション演技にはほれぼれさせられた。ところが、このハ・ジウォンにも実際のスタントウーマンがいたということを後から知った。ハ・ジウォンの代役を務めたのはまだ22歳(当時)のユ・ミジン(写真)。全20話のうち時間にして合計10分ほど出演しているそうだ。韓国でこの職業についている人は約500人いるといわれ、そのうち女性は10人足らず。ドラマの人気でこの職業が脚光をあび、スタントウーマンを目指す女性が増えたそうである。

 このドラマの最高視聴率は38.6%(TNmS調べ)。受賞歴も華やかで、2010年のSBS演技大賞ではハ・ジウォンとヒョンビンがそれぞれ10代スター賞、ベストカップル賞、ネティズン最高人気賞、最優秀演技賞を受賞した。また翌年の百想芸術大賞、ソウルドラマアウォーズ、コリアドラマアウォーズでも様々な賞を受賞し、その人気の高さを示した。

脚本家キム・ウンスク

 写真5脚本は「パリの恋人」(2004)、「プラハの恋人」(2005)、「オンエアー」(2008)、「シティーホール」(2009)などで有名なキム・ウンスク。「パリの恋人」以来、演出家シン・ウチョルとコンビを組んできた。ファンタジーものを得意とする作家である。インタビュー記事などによれば、彼女自身も父を早くに亡くし、母親のもとで貧しく育ったという。高校卒業後、大学には進学できず就職して働いた。現実の苦しさから逃避するために、せっせと本を読んだという。大好きな作家の申京淑(シン・ギョンスク1963~)がソウル芸術大学の文芸創作学科出身であることを知り、この人のようになろうと決心して25歳のときに同じ大学に入学した。

 卒業後、新春文芸に何度も応募したがことごとく落選。アルバイトで生計を維持し、ライムのような貧しい生活をしたという。演劇の町、大学路で戯曲を書いたりしていたが、ある時、ドラマのシナリオを書いてみないかと誘われた。それがきっかけで大学同窓のカン・ウンスクと一緒に「太陽の南側」(2003)、「パリの恋人」を書いて大ヒット。そしていまや、1話当たり3000万ウォン(約300万円)を下らない原稿料をもらうスター作家になったのだ。「シークレット・ガーデン」以降の作品は、「紳士の品格」(演出シン・ウチョル、2012)、「相続者たち」(演出カン・シンヒョ、2013)などがある。次の作品が楽しみだ。

写真出展

http://www.hankyung.com/news/app/newsview.php?aid=2010110908717

http://isplus.live.joins.com/news/article/article.asp?total_id=4689293&cloc=

http://www.brainmedia.co.kr/BrainNews/6129

http://www.cnbnews.com/news/article.html?no=126540

http://www.yonhapnews.co.kr/bulletin/2011/01/16/0200000000AKR20110116001600005.HTML

カテゴリー:女たちの韓流

タグ:ドラマ / 韓流 / 山下英愛

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