エッセイ

views

2102

裁判で離婚が認められるには(3)【打越さく良の離婚ガイド】NO.3-15 (40)

2014.12.18 Thu

 


40 裁判で離婚を認められる場合はどんなときですか(3)--悪意の遺棄。 

◎  離婚原因

38回と39回で、民法770条1項の離婚原因うち、第1号の不貞と第2号の悪意の遺棄と若干関連する第5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」について説明しました。離婚原因については書くことが山ほどあり、まだまだ続きます。

前回「悪意の遺棄」として問題になることとして、生活費を渡してくれないことを取り上げました。別居も「悪意の遺棄」として主張されることが多いです。今回は、別居について取り上げます。

◎  別居が「悪意の遺棄」(2号)といえるには

夫が、あるいは、妻が、他方との同居生活を一方的に解消してしまった…。置いていかれたほうとしては、無断で出て行かれたら、「悪意の遺棄」に間違いなし、許すまじ、というところでしょう。しかし、単に家を出て別居を開始しただけでは「悪意の遺棄」には当たりません。家族を顧みないなど明示でも黙示でも悪意を推測させるものが必要です。

不貞をした夫が一方的に出て行って始めた別居を、悪意の遺棄と認めた判断がある一方(名古屋高裁平成21年5月28日判決・判時2069号50頁)、行き先を告げないまま自宅を出た妻に自宅に戻るよう説得したが聞き入れられなかったことをもって悪意の遺棄とする夫の主張を、夫が妻の心情等に理解を示さず、また別居により夫の生活が経済的に立ちゆかなくなるということもなかったとして斥けた判断もあります(東京地裁平成17年11月11日判決・判例集未搭載))。

◎  別居期間

別居はむしろ第5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」として主張されることのほうが多いように思います。単身赴任などの理由もなく、相当長期間の別居をしていれば、夫婦としての関係は希薄化し、客観的に破たんしているといわざるを得ない状態になることは、明らかでしょう。

ではどの程度の期間別居していれば、第5号の離婚原因がありと認められるのでしょうか。1996年2月26日に法制審議会総会が決定した民法の一部を改正する法律案要綱 http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi_960226-1.html では、離婚原因のひとつとして、「夫婦が5年以上継続して婚姻の本旨に反する別居をしているとき」が掲げられました。ただ、身勝手な夫が妻子を棄てて5年以上別居をしたら離婚が認められてしまうなら、妻子に酷だ…という反対が当時もありました。そのような反対に配慮したのか、同要綱でも、5年以上の別居などの離婚原因があっても、「離婚が配偶者又は子に著しい生活の困窮又は耐え難い苦痛をもたらすとき」、特に5年以上の別居の場合には、「離婚の請求をしている者が配偶者に対する協力及び扶助を著しく怠っていることによりその請求が信義に反すると認められるとき」は、裁判所は離婚の請求を棄却することができるとしました。

この要綱に基づいた民法改正は未だなされていませんが(婚外子相続分差別規定廃止など、幾つかの規定を除く)、家裁実務では、事案ごとに、別居期間ひとつだけではなく、様々な事情を考慮して、離婚請求を認めるかどうか、判断しているようです。

たとえば、控訴人(夫)が被控訴人(妻)と約18年にわたり大きな波風の立たないまま婚姻生活を送ってきたが、80歳に達して病気がちになった夫がかつてのような生活力を失って生活費を減じたのと時期を合わせるかのように、妻が日常生活の上で夫を様々な形で軽んじるようになった上、夫のかけがえのない思い出の品々を勝手に焼却処分するようになったことを機に夫が家を出て別居して1年余りという事案で、婚姻を継続し難い重大な事由を認めた裁判例(大阪高裁平成21年5月26日判決家月62巻4号85頁)があります。その一方、被告(妻)が原告(夫)の暴力を避けるため別居した場合(上記事例よりは長い3年5月余)において、婚姻を継続し難い重大な事由があるとはいえないとして、夫からの離婚請求を棄却した裁判例(東京地裁平成10年1月30日判決判タ1015号232頁)もあります。

おっと。今回は、3号の「3年以上生死不明」と4号の「配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき」まで書こうと思っていましたが、たどりつきませんでした。離婚原因の説明はまだまだつきません。次回もご期待ください。

カテゴリー:打越さく良の離婚ガイド

タグ:非婚・結婚・離婚 / くらし・生活 / フェミニズム / 家族 / 女性学 / 離婚 / 弁護士 / 打越さく良 / 離婚ガイド / 裁判離婚