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財産分与だけ一致しないのだが 【打越さく良の離婚ガイド】NO.1-4 

2011.12.18 Sun

【打越さく良の離婚ガイド】NO.1-4 財産分与だけ一致しないのだが

4 財産分与だけ条件が合いません。早く離婚したいのですが,良い方法はありますか?

あわてて離婚して大丈夫?

 婚姻中に夫婦が協力して得た財産,あるいは維持した財産があれば,離婚に際し,一方は他方に対し,財産分与を請求できます(民法768条)。親権,養育費,慰謝料,年金分割など,他の条件は合意できたのに,財産分与だけが合意できない…。そんなときには,他の条件についてはいち早く合意書(公正証書)を作って協議離婚の届出をしてしまって,財産分与についてはその後話し合いを続けるという方法がありえます。ただ,財産分与を当てにして慰謝料等その他の面で妥協したのに結局財産分与でも話し合いがうまくいかないなんてことにならないように,あわてて離婚を実現するよりも,離婚等も同時に解決しても良いように思います。特に,婚姻費用を請求できる場合には,財産分与以外を先に解決するメリット,デメリットをよく考えてからにしましょう。

 財産分与以外の他の条件をまとめた合意書には,間違っても「当事者間には本条項に定めるほかは債権債務なし」といったいわゆる清算条項を入れないように注意してください。それを入れてしまうと,財産分与請求権もなしと認めたことになってしまいます。逆に,「財産分与については引き続き誠意をもって協議する。」といった断りを入れておくと安心ですね。

◎2年の除斥期間にご注意

財産分与ももちろん当事者間の話し合いで解決し,公正証書にすることもあります。

しかし,協議で話し合いがつかなければ,離婚後2年以内に財産分与の調停または審判の申立てが必要です(民法768条2項)。しかし,2年経過する直前に決意して申立てようとしても,準備が間に合わなかったり,財産が消費されて取り戻すことが大変になったりすることが心配ですから,早めに申し立てることをお勧めします。なお2年というのは,除斥期間といって,この期間内に調停,審判を申立てなければ,財産分与請求権が消滅してしまうという,厳然たる区切り。よくよくご注意ください。

◎まずは調停の申立てを

 離婚に伴う財産分与は,乙類審判事項(家事審判法9条1項乙類5号)ですので,離婚と異なり,調停前置主義の適用がなく(家事審判法17条の文面からして,調停前置主義は訴訟との関係でのみ問題となります),いきなり審判を申し立てても構わないことになっています。しかし,家裁実務上は,話し合いによる解決が望ましいとして,調停を申立てずに審判を申立てても,家庭裁判所の職権で(家事審判法11条),調停に付されてしまうことが多いようです。結局は時間がかかってしまいますので,まずは調停を申立てることをお勧めします。

 家事審判法のもとでは,管轄は,相手方の住所地または当事者間で合意した家庭裁判所でしたが,家事事件手続法が施行されると,そのほかに申立人の住所地の家庭裁判所でもOKとなります。

◎対象となる財産

 財産分与の対象となる財産は,主として,「当事者双方がその協力によって得た財産」(民法768条3項)です。相続した財産などの特有財産は原則として分与の対象になりません。しかし,特有財産の減少の防止に協力したとして,特有財産の一部についても分与が認められることがあります。あるいは,妻が夫の医師免許等の資格取得に貢献した場合,資格を無形の財産と評価して,妻の財産分与を考慮することも考えられます。

 預金などは別居後減少したり増加したりするもの。一般的には,婚姻関係が破たんした時(別居時)の預金残高が基準となります。土地や株など時価が変わりやすいものは,調停・審判の時点(訴訟の場合口頭弁論終結時)の時価を基準とする扱いになっています。

◎分割払いの場合は必ず懈怠条項を

 協議あるいは調停で合意する場合に,仮に長期の分割払いに応じなくてはならない場合には,懈怠条項,すなわち「分割金の支払を1回でも怠ったときは、当然に期限の利益を失い、未払金及び遅延損害金を一時に支払う。」といった条項を付して,必ず守らせるようにしましょう。

◎調停不成立の場合は審判へ

 調停で財産分与について話し合いが成立したときは,その調停調書は,確定した審判と同じ効力があり,相手方が守ってくれなければ,強制執行が可能です。

 調停で合意ができなければ,調停不成立となります。調停申立ての時に審判の申立てがあったこととなり,新たに審判の申立書を出す必要はありません。

カテゴリー:打越さく良の離婚ガイド

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