エッセイ

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誓約書は有効か 【打越さく良の離婚ガイド】NO.1-5 

2012.01.18 Wed

 【打越さく良の離婚ガイド】NO.1-5 誓約書は有効か

 5 夫と口論して,離婚しようということになりました。夫は,子どもの親権者は私で良いとし,共有名義の自宅不動産も全部私の名義にして良いと言うので,誓約書を書いてもらいました。でも,いざ離婚届を出そうとしたところ,夫は,自分が親権者になりたい,自宅不動産も渡したくなくなった,こんな条件なら離婚しないなどと言い出しました。自分で誓約書を書いたのに,それを取り消すなんてこと,出来るのでしょうか。

◎ 協議離婚には届出時に離婚届を提出する意思が必要

  誓約書の作成時には離婚にも条件にも合意していたのに,その後撤回するなんて,許し難い―。そう思われるかもしれませんが,「離婚しよう。」「わかった。」という合意だけでは,離婚は成立しません。協議離婚の場,戸籍法の定めるところにより,これを届け出ることによって,効力が生じます(民法764条・739条・戸籍法76条)。離婚するには,離婚届を提出する時に,離婚届を提出する意思が必要です。愛情がまだあって婚姻を継続していたいということではなく,条件に難色を示して離婚に応じてくれない場合,婚姻を維持しようという気持ちが本当にあるの?と疑問に思うかもしれません。でも,円満な婚姻を積極的に維持していようという気持ちが全然なくても,夫に離婚届を提出する意思がなくなったのであれば,妻が勝手に離婚届を提出するわけにはいきません。

◎ 離婚届を提出する意思がないのに提出しても無効

なお,「夫もいったん離婚に応じたのだから,提出しても構わないはず。」と強引に夫の署名を代筆して離婚届を提出してしまう…なんてことは,止めてください。仮に戸籍係に受理してもらっても,夫には離婚届を届出する意思がないのですから,離婚は無効です(最判昭34・8・7家月11巻10号79頁)。有印私文書偽造罪(刑法159条1項),偽造私文書行使罪(刑法161条1項),さらには戸籍にも不実の記載をさせたということで公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)に当たるとして,万が一,刑事事件として責任追及されでもしたら大変です。くれぐれも強引なことは控えましょう。

◎ 親権者が決められないと離婚できない

夫が仮に離婚はOKでも,「親権者はどうしても譲れない!俺が親権者だ!」と言い出したら?協議離婚の際,必ず親権者を母・父のどちらにするかを決めなくてはなりません(民法819条1項)。親権者について合意できないからとたとえば親権者欄を空欄にしたままの離婚届は,戸籍係に受理してもらえません(民法765条1項戸籍法76条1号)。
そして,いったんは誓約書に親権者は母で良いと書いたとしても,離婚前に気持ちが変わりダメだと言いだされたら,やはり協議し直さないといけません。もっとも,その後調停や訴訟へ進んだ際には,「いったんは親権者を母で良いと言った。」という証拠になりますので,誓約書は大切に保管しておきましょう。

◎ 財産分与の合意は有効

 誓約書に財産分与の合意内容が記載されている場合,この点は夫は取消しができません。最高裁は,夫婦関係が破たんしている場合には,もはや夫婦財産契約を取り消すことはできないとしています(質問の離婚に伴う財産分与の契約も夫婦財産契約のひとつ)。
そこで,離婚が認められた後,合意に基づいて履行の請求をするができます。既に財産分与の合意は出来ているので,総合事情を考慮して裁判官が決定するという審判の申立ては不要です。財産分与契約に基づく履行の請求については,離婚調停と平行して,一般調停としての調停の申立はできます。調停でも履行しないと夫が主張するならば,その後は,家裁ではなく地裁へ提訴するという方法になります。

カテゴリー:打越さく良の離婚ガイド

タグ:非婚・結婚・離婚 / くらし・生活 / 弁護士 / フェミニズム,家族,離婚, 打越さく良,エッセイ,離婚ガイド,親権