エッセイ

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竹村先生とピザとワイン 竹村和子フェミニズム基金の助成を受けて 三部倫子

2013.09.17 Tue

文学力の挑戦 ――ファミリー・欲望・テロリズム

著者/訳者:竹村 和子

出版社:研究社( 2012-06-01 )

定価:¥ 4,180

Amazon価格:¥ 4,180

単行本 ( ページ )

ISBN-10 : 4327481610

ISBN-13 : 9784327481612

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『同性愛と「家族」の社会学』(御茶の水書房から刊行予定)出版経費として、竹村和子フェミニズム基金から助成をいただくことになりました。

本書は、2011年度にお茶の水女子大学に提出し受理された、私の博士学位論文を大幅に加筆修正したものです。足かけ約5年、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルなどのセクシュアルマイノリティと異性愛者の親への聞き取り、かれらを支援するグループへの参与観察を行い、セクシュアルマイノリティが日本社会で生きる上でのハードル、身近であるがゆえに苦悩する異性愛者の親の姿を描きました。

博士の学位を取得するには、複数回にわたる審査会に合格しなければなりませんでした。竹村和子先生に審査員として入っていただきたかったのですが、体調を崩されて休職中と指導教員づてにお聞きしました。厳しい闘病生活に入っているとは露知らず、博士論文完成前の2011年12月に竹村先生はご逝去されました。結局、博士論文を読んでいただくという私の願いは叶わないものとなりました。

2011年は東日本大震災が起こり、悲しいことの多い年でもありました。その年の暮れに耳にした訃報。書くという作業が、これほどまで辛いことになるとは思いもよりませんでした。ご復帰されたら是非読んでいただきたかったので…。

通知決定の知らせを受けた瞬間、嬉しさの反面、いろいろと思い出されて涙が出てきました。こうして竹村和子フェミニズム基金からご支援をいただけることに、竹村先生との「縁」を感じています。

私が知っているのは、お茶の水女子大学の大学院生の立場でみた「先生」としての竹村和子さんです。若干の紆余曲折があった私は、地方の大学の大学院修士課程を中退後、お茶の水女子大学にやってきました。当時からお茶の水女子大学にはたくさんのジェンダーやセクシュアリティの研究者がいると知っていましたので、上京したら是非、竹村先生にもお会いしたいとわくわくしていました。

社会学専攻の院生として入学した私は、竹村先生の英米文学の院生ゼミに出ようと思い、先生にメールで参加の意向を伝えました。「入学おめでとう!ゼミ参加歓迎します」というような返信をくださったように記憶しています。

にもかかわらず浅薄な私は、専攻授業よりも多い英語課題を前に、しっぽを巻いて退散してしまいました。貴重な学びの機会を自ら逃してしまったと、今になって悔やんでおります。

授業での接点はありませんでしたが、学内で開かれるシンポジウムなどで先生が通訳やコメンテーターをされているのをよくお見かけしました。印象に残っているのは、21世紀COE「ジェンダー研究のフロンティア」関連シンポジウムでの「ピザとワイン」です(他の方の追悼文にも、ピザのお話がでてきますね)。

当時、貧乏院生の一員だった私は懇親会参加費を出し渋り、会場に入らずに友人たちと外で談笑していました。会場出入り口にたむろする私たちを見つけた竹村先生に「懇親会に参加しないの?」と聞かれましたが、「お金がないので」と私は答えました。そんな私たちの目を見ていたずらな笑顔を浮かべた後、彼女は「いいから入んなさい」と背中を押して私たちを会場内に連れて行き、ピザを指して「いいから食べなさい」とおっしゃってくれました。さらに、先生は嬉しそうにお勧めというワインを何本も持ってきてくださいました。そして私はおいしくピザとワインをいただけることになったのです(時効でしょうか、関係者の皆様どうか許してください)。

他にも喫煙所に行けば竹村先生に会えるだとか、研究室のドアは開けっ放しだとか、学生の名前を覚えないだとか、人づてに聞いた話はいろいろとありますが、どの話も先生のお茶目なお人柄を感じます。

竹村先生はいつのまにかいなくなってしまいました。他の多くの方同様、彼女のいない世界の寂しさにどう対処してよいか、私はうろたえました。ですが、こうして改めて彼女を語り直すことで、彼女が確かにこの世界にいたこと、そして多くを残してくださったのだ、と考えられるようになりました。

2012年3月11日東京で行われた「竹村和子さん追悼の会」でどなたかたがおっしゃっていたことが記憶に残っています。竹村先生は「言葉にできないことを、言葉を尽くして、言葉にしようとしていた」人だったと。本当に大切なことは、言葉では表現できないのかもしれません。ですが、私が彼女の著作を読んでエンパワーされたように、言葉には力があります。私の本の中には、たくさんの言葉が詰まっています。5年ほどかけて、私が耳を傾け、一緒に過ごした人たちの物語です。かれらの言葉が、「私」を経由地として、読者の方に届くことを願っています。

竹村先生のご遺志があってこそ、本書の出版が現実的なものとなりました。背中を押してくださった竹村先生、本当にどうもありがとうございました。








カテゴリー:竹村和子さんへの想い / シリーズ

タグ:LGBT / / 同性愛 / ジェンダー研究 / 多様な家族 / レズビアン / ゲイ / 異性愛