
WANでは、性差別の撤廃・ジェンダーバイアス解消の課題認識を含む、または反差別の立場からセクシュアリティに関する新しい知見を生み出している博士論文の情報を収集し、「女性学・ジェンダー研究博士論文データベース」に登録・公開し、広く利用に供しています(2026年9月30日現在2024論文)。同データベースに登録されている論文を、多様なバックグラウンドをもつWANにかかわるコメンテイターが読み、コメントし、意見を交わす機会を設け、執筆者に、大学や学会とは異なる研究発展の契機を、また多様な参加者に博士論文に接する機会を提供することを目的に、WAN博士論文報告会を開催しています。その第11回を以下の通り開催しました。
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日 時 2026年3月25日(水)13:00~16:30
開 催 オンライン
参加者 22名
内 容
◆第1部
報告 大石茜さん(松山大学人文学部准教授)
『保育の帝国史:家族をめぐる統治の技法』岩波書店、2026
博士論文「帝国日本の保育―内地・外地における家族の統治―」筑波大学、博士(学術)、2023
コメント 松田ヒロ子さん( 神戸学院大学現代社会学部教授、社会史/歴史社会学)
◆第2部
報告 左髙慎也さん(名古屋大学 ジェンダーダイバーシティセンター特任助教)
『制度論からのジェンダー平等: フェミニスト制度論から政治理論をつくる』勁草書房、2026
博士論文「フェミニスト制度論的政治理論の理論的考察 : 「経験的研究の分析枠組みとしてのフェミニスト制度論」パラダイムを越えて」名古屋大学、博士(法学)、2024
コメント 衛藤幹子さん(法政大学名誉教授、ジェンダー政治学)
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第一部は博士論文をもとにした著書『保育の帝国史――家族をめぐる統治の技法』をとりあげ、著者の大石茜さんにお話しいただきました。大石さんによれば、これまで保育の歴史は、一国史として、発展史観のもとで、内地における内地人向けの保育だけを対象に、善いものとしての保育が描かれてきました。これに対し本書では、保育の歴史を帝国史として捉え、植民地近代性の議論を踏まえながら、宗主国と植民地の関係性のうえに近代を捉えなおすことで、保育のもつ別の側面を描き出しています。すなわち、内地、台湾、朝鮮、樺太、南洋、満洲(関東州や「満洲国」を含む)という帝国の版図を射程に入れ、各地域における保育を横断的に検討し、保育を帝国の統治の技法として捉えることで、保育という実践が内包する暴力性や危うさを可視化し、「社会的なもの」としての保育の側面を明らかにしています。コメンテーターの松田さんからは、日本帝国史においてこれまで看過されてきた保育という領域を描き出した点、日本帝国史における「アジール」の領域を描いた点、「植民地近代性」概念を援用することにより発展史的な保育史を捉え直した点が高く評価されました。
第二部は博士論文をもとにした著書『制度論からのジェンダー平等――フェミニスト制度論から政治理論をつくる』をとりあげ、著者の左髙慎也さんにお話しいただきました。左髙さんによれば、これまでの「フェミニスト制度論」は現実に生じた政治現象を経験的に分析するための枠組みとして理解するという「経験的研究の分析枠組みとしてのフェミニスト制度論」でした。これに対し本書はジェンダー平等を実現するための望ましい制度を構想する「フェミニスト制度論的政治理論」を展開したもので、(a)制度の包摂性、(b)制度を再ジェンダー化するプロセスの重視、(c)「政治」と「非政治」の往還、(d)インフォーマルな制度に対する視座、(e)制度変化の不確実性の擁護、という5つの観点を重視しながら、ジェンダー平等実現のための望ましい制度を構想した点に特徴があります。コメンテーターの衛藤さんからは、本書が制度分析(実証)と政治理論(規範)を接続した点や、「なぜ形式的平等が実質的平等を生まないのか」を制度レベルでの分析した点が高く評価されました。









