西山朋佳さんが女性初の棋士としてニュースのトップに躍り出てきました。囲碁も将棋も全く門外漢なので、その制度や仕組みがよくわからないのですが、とにかく西山さんが今まで女性がついたことのない地位に初めてついたということだけはわかります。

 去年10月には女性初の総理大臣が誕生、この秋には東大に初めて女性総長が選出、 その前の今年5月には競馬のオークスで女性騎手が初めて優勝……。21世紀も4分の1を終わったというのに、今だに、「女性初」がニュースになるのは何とも情けない話です。

 にわか勉強でその「女性初」の地位がどういうものか調べてみました。すとんと納得できなくて「だそうです」という歯切れの悪い言い方をたびたびしていますが、そこはひとつ勘弁してください。

 将棋のプロ棋士になる仕組みがおぼろげながらわかってきましたが、どうやらそこには男性ルートと女性ルートがあり、今回の西山さんは女性ルートを経てその最上位の「白玲5期」に達したので、男性と同じ「棋士」になる資格を得たということだそうです。

 男性ルートはふつうは奨励会に入って、6級から始まって級と段をあげ、3段リーグを経て4段に昇段すると、「棋士」になれるのだそうです。女の子が将棋のプロになりたいと思ったら、全く別のルートをたどります。やはり奨励会とか研修会を経て女流2級、女流1級、女流初段、女流2段、女流3段と、どこまでも「女流」のついたランクを獲得し、その頂点が「女流棋士」です。男の子の最終ポジションの「棋士」とは全く別のルートの女性だけの頂点ということになります。西山さんはすでに「女流棋士」のポジションは獲得していて、その上に男性と同じ「棋士」になれる「白玲5期」という条件をクリアできて、晴れて「棋士」の地位を獲得したということのようです。

 今まで女性で誰もついたことのないポジションに西山さんは初めてつきました。そこに達するまでにはモーレツな努力と精進があったはずで、まさに快挙です。今まで誰も到達できなかった頂点に立って、女性の将棋界の新しい道を切り開いたのです。本当にすごいことです。そのおめでたい壮挙をたたえながら一方で、朝日新聞は「女流と「二刀流」懸念」(2026/10/27)という記事を載せています。「棋士」と「女流棋士」の二刀流で対局の日程が過密になり、西山さんの負担が重すぎにならないかという懸念です。

 これって、ひどい話じゃありませんか。男性のトップの地位と女性のトップの地位と両方を持ち続けなければならないとしたら、それは大変負担です。男性が最高位の「棋士」になったとき、こういう懸念がありますか。いえ、全くありません。そもそも男性は「棋士」だけですから、二刀流になることはあり得ない。男性ルートだけひたすら走ればいいのです。女性はさんざん区別して別の道を歩ませておいて、やっと同じ道を踏めたと思ったら、前のルートも守りなさいなんて。

 これでは「棋士」になったが、その先はあまり進歩がなかったという事態も起きかねません。「棋士」になってもまだまだ先は遠いのです。「10年以内に既定の成績を挙げて順位戦参加資格を得ないと強制引退となる」(朝日新聞2026/10/26)という恐ろしい世界です。女性が初めて「棋士」になったのに、それ以前に獲得していた「女性棋士」の地位も守り通さなくてはいけない。またまたハンデではないですか。

 将棋でプロになる資格は「棋士」ルートだけでいいんじゃありませんか。男性と比べて女性は実力が低いから別ルートを作ったというのが歴史的な経過です。だったらもうそのルートは一本にしてもいいのではないでしょうか。女性の将棋人口が男性に比べて少ない、だから男性と同じルートでは、女性は無理だという「配慮」でしょうか。逆だと思います。女性の将棋人口が男性に比べて少ない理由は、女性は棋士にはなれない、プロの棋士として活躍できないという現実があるからでしょう。男の子と同じような将来が開けているとわかったら、将棋の好きな女の子も増えるでしょう。今まで西山さんのようなモデルがいなかったから、将棋に実力のある女の子も先に希望が見いだせなくて早々と撤退してしまったのではないでしょうか。

 将棋の世界だけ見ていてもわかりません。たとえば弁護士です。「虎に翼」のころには女性の弁護士はいなかった、でも先頭を切って頑張った寅子のような人がいたから、その後続々と弁護士になる女性が出てきた。しかも司法試験は男女全く同じ問題で同じ時間内で解いていきます。男性ルート女性ルートなどの区別は全くありません。女性の弁護士は着々と増えています。2000年の時期では日本の弁護士の女性比率は8.9%でしたが、今2026年の統計では21.0%と格段に増えています。もちろん、21.0%では5人にひとりですからまだまだ喜べませんが、かつては男性の職業とされた分野に女性が着々と増えていることは確かです。

 弁護士と棋士とは違うと言われるかもしれません。もともと、○○は絶対に男の仕事、××は絶対に女の仕事、と言えるものがあるのでしょうか。看護師を見てみましょう。明治以来白衣の天使などと美化されて女性の天職のように思われてきましたが、今では男性の看護師が増えて、法律までも保健婦助産婦看護婦法が、保健師助産師看護師法に変わりました。看護師国家試験は男性も女性も全く同じ条件で行われています。しかも、明治の初め、看護婦養成が始まったころは看病夫という男性がたくさんいましたし、軍隊には看護兵がいました。女性の天職など、一方的な見方に過ぎません。

 今まで、いろいろな職業や専門の技能を持った人を育てるとき、ジェンダー格差を土台にして初めから男に向いている女に向いていると決めつけてスタートしていたのではないでしょうか。男に向いているとか女には向いていないなどは、その社会に都合のいい人間を育てるための方便だったのではないでしょうか。

 いつまでも、「女性初」と騒がないですむ世の中に日本もなっていくべきです。