
「クィア」という視点から自然を見つめ直す
「クィア」という言葉から、あなたは何を思い浮かべるだろう。
実は自然界を見渡してみると、「ふつうの性」という枠には収まらない生き物たちが、驚くほどたくさんいる。
本書では、動物・植物・菌類など29種の生き物を通して、自然界に見られる性や生殖、行動の多様性を、色彩豊かな写真とともに紹介する。同性間の性行動をはじめ、かつて例外や特殊な現象と見なされてきた生き物たちの姿を、科学的な視点から丁寧に描き出す。
たとえば、同性どうしでつがいになり、協力して子育てをする海鳥。メスだけで繁殖するトカゲ。体の左右で性別が異なるチョウ。成長の途中で性別が変わる魚や、雄しべと雌しべのあり方が多様な植物も登場する。
こうした生き物たちの姿を目の当たりにし、それらが科学の歴史のなかでどのように扱われてきたかをたどると、あることが見えてくる。自然に存在する多様な現象を「例外」として見過ごしたり、見えにくくしたりするまなざしがある一方で、自然をありのままに見つめ、その存在を認めようとするまなざしもまた、交錯してきたのだ。
現代の人間社会でも、「同性婚や同性愛は種の保存に反する」といった議論がなされることがある。けれど、本書に登場する海鳥の同性カップルは、力を合わせて子育てをすることで、ヒナが育つ成功率を高めている。
また、トカゲやハイエナの章では、メスだけで繁殖する仕組みや、メスが主導する社会のなかで、個体同士がどのように関係を築き、集団として生きているのかが描かれる。そこからは、生き物たちが多様なあり方のなかで、しなやかに関係を築きながら命をつないでいる姿が見えてくる。
こうした生き物の姿は、私たちが自然を見つめる目や、「当たり前」と思っている世界が、いかに限られたものだったかを教えてくれる。
本書を通して見えてくるのは、自然界が私たちの想像以上に複雑で、多彩な性のあり方に満ちているということ。「クィア」という視点から自然を見つめ直せば、これまで見過ごしていた生き物たちの姿が、まったく違って見えてくるかもしれない。
本書の著者、訳者はともに性的マイノリティであることを公表している。そんな二人が案内する、新しくて、ちょっと「クィア」なセンス・オブ・ワンダーの世界。この不思議さに、ぜひ目を見開いてほしい。
◆書誌データ
書名 :生き物たちのちょっとクィアな話:自然界にあふれる多様な性のかたち
著者 :ジョシュ・L・デイヴィス 著 高橋璃子 訳
頁数 :138頁
刊行日:2026/10/20
出版社:化学同人
定価 :1980円(税込)









