2014.12.05 Fri
ドラマ「ロイヤルファミリー」(全18話、MBC、2011)は、財閥を舞台に繰り広げられる女たちの壮絶なものがたり。原作は森村誠一の推理小説『人間の証明』(1976)。そのエッセンスを活かした見応え満点のドラマである。脚本はクォン・ウンミ(「カプトンイ」2014)、演出キム・ドフン(「太陽を抱く月」2012)。さらにクリエーターとしてキム・ヨンヒョンとパク・サンヨン(「善徳女王」の脚本家たち)が加わった。クリエーターというのは米国のドラマ作家たちの作業方式だそうで、作品のアイディアを出し、エピソードの一貫性や枠組みをつくる役割をするそうである。このドラマのスピーディーな展開やストーリーの緻密さの理由もここにあるのだろう。
虫けらのような“嫁”
主人公キム・インスク(俳優ヨム・ジョンア)は、韓国の大財閥であるJKグループ会長コン・スノ(キム・ヨンエ)の次男トンホの妻。インスクは、元はJKの社員で、前会長(コン・スノの亡夫)の秘書だった。政略結婚を常とする財閥家で、オーナーの息子と一介の社員との恋愛結婚は異例のことである。インスクには政財界に影響力をもつ実家があるわけでもなければ学閥もない。トンホとインスクがコン・スノの猛反対にもかかわらず結婚できたのは、前会長が生前に結婚を許したのと、トンホが遺産相続を放棄したからだ。
インスク(写真)は結婚以来18年間、オーナー一家が住む静佳園(チョンガウォン)の一角で暮らした。しかし、静佳園ではコン・スノ会長をはじめその家族から名前の代わりに“K”と呼ばれ、人間扱いされなかった。息子を自分で育てることも許されず、決められたボランティア活動以外は外出も自由にできない。そんな長年の生活でインスクは不眠症になり、心身ともに憔悴した。その上、唯一の支えだった夫が事故で死ぬや、コン・スノ会長はインスクに対する圧迫をますます強めた。
コン・スノがこれほどインスクを踏みつけたのは、インスクがロイヤルファミリーにそぐわぬ存在であるということだけでなく、前会長である夫との関係を密かに疑ったからである。コン・スノはその真偽を生前の夫に確かめられぬまま、心の中のしこりとして抱え込んだ。それが時として顔をもたげ、一層インスクを踏みつけた。コン・スノはついにインスクを禁治産者(成年被後見人)に仕立てて息子(ビョンジュン)の親権を奪い、静佳園から追い出そうと画策する。
片や、インスクの長年の支援によって孤児の不良少年からスター検事に成長したハン・ジフン(チ・ソン:写真)は、インスクがJKグループの嫁であること、しかも静佳園で人間以下の扱いを受けていることを知る。自分を無条件信頼して守ってくれたインスクを、今度は自分が守る番だとJKグループの顧問弁護士として静佳園に入り込む。こうして物語は、インスクをJK一家から排除しようとするコン・スノ会長と、それに立ち向かい、大胆にもJKグループの会長の座に挑んで奮闘するインスクとジフンの姿が描かれる。
インスクの過去
物語が進むにつれて、それまでベールに包まれていたインスクの過去が少しずつ明かされる。インスクがジフンを支援してきた背景や、静佳園でコン・スノ会長に20年間仕えてきたオム執事(チョン・ノミン)とインスクとの意外な関係、そしてインスクとジフンの生い立ちなどである。私がもっとも驚いたのは、主人公インスクが孤児出身で米軍基地の町で育ち、米軍兵士と暮らした女性として設定されていたことだ。原作の主人公、八杉恭子は大学に通わせてもらえるほどの裕福な実家があり、米軍兵士と同棲はするが職業的な“基地村の女”ではなかった。ところがインスクの場合はややあいまいに描かれてはいるものの、境遇としてはまさしく“基地村の女”なのである。
孤児で基地村育ちのインスクは、韓国社会の最底辺層といってもよいだろう。そんなインスクが大財閥JKグループの会長を相手にトップの座を争うのだから実にダイナミックである。ドラマの終盤、インスクが自分の過去のすべてをさらけ出してコン・スノ会長に挑みかかる場面がある。そこで「お前を苦しめたあまたの人間の中でなぜ私が標的に?」と問う会長に向かって、インスクは次のように答える。「あなたは私にとって静佳園であり、梨泰院の洋公主村(外国人相手の売春街)であり、この世のすべてだから。・・・韓国の富と権力の核心であるあなたに復讐するのがもっとも痛快だから」と。果たしてドラマの結末はいかに?私は最後までまったく予想がつかなかった・・・。
キム・ヨンエの名演技
当初、このドラマはSBSの人気ドラマ「サイン」の放送と重なり、一桁台の低い視聴率から出発した。それでも回を重ねるごとに視聴率が伸び、第7話では最高視聴率の18.8%にまで上った(AGBソウル)。たが、第8話でインスクと米軍兵士との間に生まれたジョニーが登場すると途端に視聴率は下がり始める。脚本家とクリエーターたちはこうした“暗い話題”が大衆的に受け入れられないということを初めから予想していたという[i]。それでも最終回の視聴率は14%で、まずまずの成績だった。
その立役者は、やはりカリスマあふれるコン・スノ会長を演じたキム・ヨンエ(金姈愛1951~)であろう。コン・スノ会長を「強い性格だとは思っても、悪人だとは思わなかった」というキム・ヨンエ。JKグループの最大株主であり、孤独で冷徹な心の持ち主のコン・スノになりきって演技した。“○○の母”や“○○の妻”という付随的な役ではなく、インパクトのあるコン・スノ会長を演じることができたのは幸運だったとインタビューで語っている[ii]。セリフの中では「この静佳園ではコン・スノが法である」がもっとも気に入ったとか。コン・スノ役でMBC演技大賞特別賞を受賞した。
キム・ヨンエは朝鮮戦争中の1951年に釜山で生まれた。釜山女子商業高等学校を卒業後、1971年にMBCのタレントとしてデビューした。同い年の女性タレントにキム・ジャオク(金慈玉)やコ・ドゥシム(高斗心)、ハン・ヘスク(韓惠淑)がいる。ちなみにキム・ジャオクは先月(11月16日)肺がんのため亡くなった。キム・ヨンエも「ロイヤルファミリー」の後で出演した「太陽を抱く月」の放映中にすい臓がんが見つかり、ドラマの終了を待って9時間に及ぶ手術を受けたという。その後、がんを克服してドラマと映画で活躍している。故ノ・ムヒョン大統領の弁護士時代を描いた映画「弁護人」(2013)では、拷問被害者の大学生の息子をもつ庶民的な母親(写真)を演じ、大鐘賞の女優助演賞を受賞(2014)した。
あまり無理せずに、これからも末永く演技を続けてほしい。
写真出典
http://mlkangho.egloos.com/10670591
http://article.joins.com/news/article/article.asp?total_id=5242038&ctg=1502
http://conting.sbs.co.kr/service/detail.jsp?vVodId=M_1002563100000100000&vVodCnt1=0012&vVodCnt2=0
http://www.mediaus.co.kr/news/articleView.html?idxno=17349
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