エッセイ

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性暴力被害者の心情・行動に理解を WAN編集局

2011.03.05 Sat

2月22日に神戸地裁で強姦事件に対して出された判決に対し、女性たちのグループから声明や要望書が出されています。

事件そのものは、以下のように報道されています。

「強姦で起訴の男性無罪「抵抗困難と言えず」」@日刊スポーツ/共同通信
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp0-20110222-740076.html

内縁関係にあった女性の長女に性的暴行を加えたとして、強姦(ごうかん)罪に問われた神戸市の無職の男性(42)に神戸地裁は22日、「抵抗することが著しく困難だったとは言えない」として無罪判決を言い渡した。求刑は懲役13年だった。
弁護側は「性行為はしたが、脅迫などはなかった」として強姦罪に当たらないと主張していた。
神戸地検の小寺哲夫次席検事は「判決の内容を精査した上、控訴するかどうか検討する」としている。
奥田哲也裁判長は判決理由で、男性と長女が上半身裸で一緒に写っている写真があることや、2人で外出し買い物していたことなどに触れ「(男性に)恐怖心を抱いていたという長女の供述の信用性には疑問が残る」と指摘した。
神戸地検は、男性が2005年11月?07年2月、神戸市西区の自宅で当時高校生だった長女に計4回の性的暴行を加えたとして起訴していた。男性の弁護人は「そもそも起訴が不当だった」としている。(共同)
[2011年2月22日12時23分]

この判決に対して、アジア女性資料センターは、3月2日、不当判決であるとして、神戸地裁、最高裁、神戸地検、大阪高検、あてに声明を送付しました。声明全文はこちらから

アジア女性資料センターの声明では以下のようにのべています。

「義父と未成年の少女の間には、そもそも圧倒的な力の差があり、少女が相手に対して完全に自由に性的自己決定を行使できる関係性とはいえません。密室性の高い家族の中で発生する虐待は、外部の人に相談しづらく、経済力のない未成年にとって容易に逃れ難いものであるがゆえに、被害者が生き延びるために加害者に迎合的な態度をとることは、なんら不思議ではありません。被害者の性的自由を抑圧する支配関係を十分に検討せずに、「抵抗することが著しく困難だったとは言えない」とする論理は、多くの性暴力被害者の現実を無視し、女性全体を絶望させるもので、絶対に許すことができません。」

また、性暴力禁止法をつくろうネットワークは、3月2日、大阪高等検察庁、神戸地方検察庁を訪問し、控訴を求める要望書を提出しました。要望書全文はこちらから

性暴力禁止法をつくろうネットワークの要望書では、以下のようにのべています。

「心理的な監禁状態におかれた被害者は加害者を怒らせるようなことはできません。笑顔で親密そうに写真に写ったり、一緒に仲良く外出することも何も不思議なことではないのです。写真を撮るときに不快な顔をすれば何をされるかわからない、外出先でも楽しそうにふるまわなければ相手が機嫌を悪くしてしまう、など外から見れば被害者なのになぜそんなふうにふるまえるのか理解できないような行動も、被害者にとってはそのときを生き延びるための精一杯のサバイバル行動であったと認識する必要があります。また、継続した性暴力被害の被害者は被害時に「解離」とよばれる精神症状になっている場合もあります。まるで被害にあっているのは自分ではない、というように感覚や感情を自分から切り離すことで、苦痛でたまらない状況を生き延びる防衛策なのです。ですから被害にあっていても不快そうな顔も見せず、相手の要求に応えて笑顔で対応することもできるのです。」

これらの声明・要望書においては、母親のパートナーの男性と高校生であった女性の間には、圧倒的に力関係があり、高校生の女性はその関係から逃れられない状況にあったと考えられると指摘されています。そして、このことに留意しない証拠の解釈に対する裁判所の認識不足を指摘しているのです。

裁判所や司法関係者のみならず、社会に対しても、被害者が性暴力に対してとるサバイバル戦略への理解を求めることが必要です。性暴力被害者に対して、「嫌なら嫌と言えばいいじゃない」という一言がしばしば発せられますが、被害者がそれができないような状況があるのだということを、私たちは忘れるべきではありません。また、それができないような状況に追い込んでいくような加害者の卑劣性が存在することを、私たちは理解しておくべきです。

性暴力被害者の行動と心理についての社会的理解が深まらないままでは、女性に対する性暴力は常に常に過小評価され、被害者の「落ち度」が問題視され続けるでしょう。「STOP!性暴力」を実現するため、多くの人たちの理解が深まることを希望しています。

そのためにも控訴審を求める女性たちの行動は非常に重要な意味をもちます。
3月8日が控訴期限なので、まだ間に合います。
神戸地裁、最高裁、神戸地検、大阪高検、等に、ぜひ、性暴力被害者の心情・行動を理解して裁判を行うよう、要望書を送っていただけばと思います。

カテゴリー:STOP!性暴力

タグ:DV・性暴力・ハラスメント