2013.03.23 Sat
原題 terraferma は「陸地」を意味するという。だが、本作品で徹底して描かれるのは「海」である。そう、これは「海」の物語であり、同時にその先にある「陸地」が、絶え間なく夢想される物語なのだ。
冒頭、鈍く光る水中が映し出されている。しだいに画面は網の目に覆われ、絡みとられてゆく。引上げられた先は漁船の上だ。そこには祖父と漁業を営む青年、フィリッポの姿がある。
以降も、画面は何度も水中に至り、水中を漂う。ときには、観光客が海に飛び込み遊泳する、その一部始終が水底からとらえられていたりもする。身体にのしかかる水圧や鈍くなる手足の動き、冷たさを体感せよというかのように。
監督エマヌエーレ・クリアレーゼは、これまでにも『グラツィアの島』(2002年、原題:『息吹き』)や『新世界』(2006年)などで、イタリアの島や移民をめぐる問題に光をあててきた。本作品ではシチリア諸島の小島を舞台に、難民をめぐる葛藤が描かれる。島の外からみればどこまでも青くうつくしい海は、アフリカからヨーロッパへ北上する多くの難民を引き寄せ、不和を呼び込む元凶でもある。
人々の「陸地」への希求は、たやすくかなえられるものではない。フィリッポがその目でみたように、難民の多くが漂流の末に力尽き、海に呑まれてゆく。運よく引上げられたとしても、いずれ本国へ移送されてしまう。だからといって、難民に手を貸せば規則に違反し、島で生きることは難しくなるだろう。目の前で溺れる者に何もしてやれないのか。フィリッポたちは苦悩する。
海中には紙切れや靴などに交じって、苔むしたまま直立する聖像のような姿がみえた。これら遺品の所有者はいま、どこにいるのか。海中の聖像は、もはや地上に救いがないことを示しているかのようである。
行き場のない現実のなかで、あどけなさと愛らしさが残るフィリッポが良い。20歳という、船乗りならばすでに立派な大人のうちに入るであろう彼も、おじにはまだ世間を知らない「子供」だと揶揄される。
だが、ときに「子供」の無軌道さが物語を駆動する大きな力になるように、フィリッポは苦悩しながらも、「陸地」へのわずかな希望をのせて物語を牽引する役を担う。海をめぐるこの映画はフィリッポの、また新たなスターの誕生と目されている俳優フィリッポ・プチッロの成長物語でもあったのだ。
彼が向う先に「陸地」はあらわれるのか。丹念に紡がれた映像と彼の成長を見届けたい。
2013年4月6日(土)より、岩波ホール他にて全国順次ロードショー
©2011 CATTLEYA SRL・BABE FILMS SAS・FRANCE 2 CINÉMA
2011年/93分/イタリア、フランス/イタリア語/35mm/カラー/シネスコ/Dolby, DTS/原題: Terraferma /日本語字幕:岡本太郎
提供:クレストインターナショナル、朝日新聞社/後援:イタリア大使館
配給:クレストインターナショナル
出演:フィリッポ・プチッロ、ドナテッラ・フィノッキアーロ、ミンモ・クティッキオ、ジュゼッペ・フィオレッロ、ティムニット・T
公式ホームページはこちら
カテゴリー:新作映画評・エッセイ
タグ:くらし・生活 / 家族 / 観光 / フランス映画 / イタリア映画 / 宮本明子 / 女と映画 / シェルター / フィリッポ・プチッロ / エマヌエーレ・クリアレーゼ
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