
国立市といえば、まちづくりへの市民参画が活発な文教地区で、全国に先駆けてアウティング禁止条例を制定した街。そして、大学通りには美しい桜並木。「国立(くにたち)」のことを知る方であれば、そのようなイメージを持っている方も多いだろう。私自身は学生時代に、女性たちが学ぶ場としての託児つき講座の先駆けが国立市であると知り、長い間気になる街であり続けた。
本書は、国立市の「ジェンダー平等のまち」をつくるための取り組みを、1950年代からの街の歴史と関係者へのインタビューをもとに紐解いた一冊である。本書を読めば、「浄化運動」「文教地区指定運動」から現在のジェンダー平等推進施策に至るまで、「まちをよりよく変えていく」ことに真剣に取り組んできた市民たちの姿が見えてくる。
現在「女性支援」は、2024年4月1日に困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(女性支援新法)が施行されたことで、大転換期にある。1957年施行の売春防止法から66年。売防法が女性支援の根拠法だった時代の「保護・更生」視点から脱却し、当事者中心の包括的支援の実現が求められている。国立市の女性相談、くにたち男女平等参画ステーション・パラソル、民間支援団体であるNPO法人くにたち夢ファームJiikaの官民協働体制では、法律に先駆けて当事者中心の連携支援が展開されてきた。本書には、各セクターの役割と強み、セクター同士の対等な関係性が現場感・臨場感たっぷりに描かれている。
「誰も排除しない社会」をつくり、それを維持し続けることは容易いことではない。昨今の「パイの奪い合い」にすら見える分断状況を見ても、その困難に心折れそうになるときがある。筆者は、「すべての人の自由と権利を保障することは、自治体の重要な責務の一つである」と言い切る。「すべての人」の声を聴き続けることの途方のなさを思いながらも、その尊い取り組みを諦めてはならないのだと胸が熱くなった。市民・行政双方の立場の人々が「諦めなかった」からこそ国立市の今がある。今後も、勇気溢れる国立市の取り組みに期待したい。
<関連情報>
・くにたち男女平等参画ステーション・パラソル情報誌vol.14(特集:ジェンダー平等に向けた国立市の取り組み)
https://kuni-sta.com/2025/02/18/jyouhoushi14/
・イベント
『ジェンダー平等のまちをつくる』刊行記念トークイベント(マルジナリア書店)
太田美幸、木山直子(くにたち男女平等参画ステーション・パラソル)
https://yorunoyohaku.com/items/67c182027b8f0304b8c3f35e
◆書誌データ
書名 :ジェンダー平等のまちをつくる: 東京都国立市の挑戦
著者 :太田美幸
頁数 :216頁
刊行日:2025/02/12
出版社:新評論
定価 :2420円(税込)
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