
ジェンダー理解を妨げる“急所”をめぐって
本書はジェンダーの入門書という位置づけであるが、同時にジェンダーを通じて権力関係のありようを考えるきっかけを提供する目的で書かれたものでもある。
多くのジェ ンダー論の入門書や教科書的な書籍では、冒頭で「ジェンダーとは」「セックスとは」「セクシュアリティとは」といった概念定義や解説から始まるだろう。しかし本書では、あえてそのような形式を採用しなかった。本書で最初に示すのは、本質的なもの/構築的なものにかかわらず、性別というカテゴリーが現存することと、そのあいだには権力関係が設定されている、という事実である。
もちろん概念定義や説明は重要である(入門書/専門書を問わず)。しかし、最初に定義を示すことによって、無意識的にでも読者は自らをそれらのジェンダー・カテゴリーに同一化・内面化して読み進める可能性もあるだろう。その結果、読書過程そのものがジェンダー・ポリティクスの再生産ともなりうる。本書では、最初に権力関係の存在を論じ、その後、読み進めるにしたがってポジショナリティという概念を示すことによって、自らのポジション(=位置性)に意識的に読むことを促そうと目論んでいる。極力、カテゴリーへの同一化の契機を低め、位置性(権力性)への意識を高めて読んでほしいという願いからである。
また本書は、これまでのジェンダー論や女性学の知見に多くを負っているが、同様に私が普段接してきた学生たち(とくに女子学生)からも多くの知見を得て書かれた。ジェンダー論に触れた彼女たちが、頭では十分に理解しつつも、しばしば見せる戸惑いの表情や葛藤の言葉。それはどのような機序によって発現しているのか、またその背景にはどのような男性たちによる権力作用が潜んでいるのか、本書の根源的な問いはここにあった。
女性たちが(そして男性たちも)、ジェンダー論を受容するにあたって、異性愛的性差別の感覚に引き戻されかねない“急所”はどこにあるのか。本書では、そのような“急所”と思われる箇所に焦点を当てて、ジェンダー論をより深く理解することを妨げているロジックを検討した。それらは論理的な水準でも、コミュニケーションの水準においても、双方に溢れていると思われる。
体系的で優れたジェンダー論の入門書や教科書は多い。そのなかに1冊くらい、このように外道な入門書があってもよいと思い、書いた次第である。興味がわいたら一読いただければ幸いである。
◆書誌データ
書名 :『ジェンダーの考え方――権力とポジショナリティから考える入門書』
著者 :池田 緑
頁数 :192頁
刊行日:2024/12/26
出版社:青弓社
定価 :2640円(税込)
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