「産んでも産まなくても責められる」——日本の女性が直面してきたこの問題は、参政党の躍進などを背景に、今こそいっそう強まっている。

本書は、この状況を国際人権基準から捉え直し、生殖に関わる選択を当事者が不利益なく決め、実現できる権利=リプロダクティブ・ライツ(リプロの権利)として整理した一冊である。

リプロの権利は、妊娠・出産・中絶・避妊・月経・更年期など、生殖に関わるあらゆる選択について、当事者が自ら決定し、その実現に必要な手段と情報を得られる権利である。しかし1990年代に国際社会で明確に位置づけられたにもかかわらず、日本では概念そのものが十分に共有されてこなかった。

本書では中絶問題研究22年の経験から、その問いに正面から答えようと試みた。

カイロ会議から北京会議に至る国際的な合意形成の流れ、戦後日本の人口抑制策から少子化対策への転換のなかで、女性の身体がどのように政策の道具とされてきたのか。

そして2000年代の「リプロ潰し」——1990年代の国会決議で約束された法改正は政治的・宗教的圧力で骨抜きとなり、激しいジェンダー&性教育バッシングを招いた。30年が経っても、日本は国際基準から大きく離れたままであるのはなぜなのか。

国際的議論の流れから日本が少しずつ外れていったこと、そして国内では人口政策や制度改正の節目ごとに足を踏み外してきたこと——本書は、この二つの動きが今日の状況をどのように形づくったのかを丁寧に辿ってみた。アイルランド、アルゼンチン、韓国など、市民運動と法改正によって権利拡大を実現してきた国々との比較は、日本の課題をより鮮明に浮かび上がらせるだろう。

倫理学者・高井ゆと里さんは、本書を「中絶の権利やヘルスケアとしての中絶アクセスを知りたい読者にとって比類ない著作」と評価し、リプロの権利を〈自己決定権/手段へのアクセス/保護と救済〉の三つの柱から整理する姿勢を指摘している。また、「#なんでないの」のアクティビスト・福田和子さんは、断片的だった情報が大きな流れとして理解できると述べている。

少子化対策が前面に出る今こそ、生殖に関わる選択が当事者の権利として保障されるべきだという点を、あらためて確認する必要がある。本書がその議論を進めるための一つの土台となれば幸いである。

【目次】
序章 リプロの権利は「人権」のひとつ
第一章 リプロの権利はいかにして生まれたか
第二章 人口政策に翻弄された日本の中絶・避妊
第三章 2000年代、日本政府の「リプロ潰し」
第四章 世界はどのように変えてきたのか
終章 日本の今後に向けて


◆書誌データ
書名  :『産む自由/産まない自由 「リプロの権利」をひもとく』
著者  :塚原久美
頁数  :240ページ
刊行日 :2025/09/17
出版社 :集英社
定価  :1089円(税込み)

産む自由/産まない自由 「リプロの権利」をひもとく (集英社新書)

著者:塚原 久美

集英社( 2025/09/17 )