
手に魂を込め、歩いてみれば
登場人物:セピデ·ファルシ、ファトマ·ハッスーナ
監督:セピデ・ファルシ
プロデューサー:ジャヴァド・ジャヴァエリー
制作:Rêves d‘Eau Productions、24images Production
配給:ユナイテッドピープル
113分/フランス・パレスチナ・イラン/2025年
©Sepideh Farsi Reves d’Eau Productions
イランで反体制運動に身を投じ、16歳で投獄され、18歳で祖国を後にした映画監督セピデ・ファルシ。「天井のない監獄」と呼ばれて来たガザに生まれ、一度も「外」に出たことがない24歳のフォトジャーナリスト、ファトマ。境遇も年齢も大きく異なる2人の女性がスマホ越しに交わすビデオ通話によって、この映画は作られている。
通信環境の悪さから、ファルシ監督のスマホに映し出されるファトマの声と表情はしばしば途切れ、フリーズもする。それでもファトマは、少しでも電波状況の良い場所を探して、監督からのコールに応えようとし続ける。スマホの画面に向き合う監督と、その画面が映し出されたスクリーンのこちら側にいる私たちにとって、ファトマの顔が現れるまでの、コール音だけが響く時間は、毎回緊張に満ちている。電波が完全に断ち切られてしまったか、もしくはファトマの身に決定的な何かが起こったのではないかと案じながら待つ時間だからだ。
2人の通話の合間に差し込まれるのは、ファトマ自身がガザで撮影した写真である。どのショットもひとつ残らず、目に焼きつく鮮烈な印象を与える。それは一方的かつ圧倒的な暴力にさらされた光景の悲惨さゆえだろうか。いや、カメラを向けるファトマの目の冷静さと温かさがそのまま伝わる写真だからではないだろうか。そしてその目がレンズを通してとらえた被写体は、瓦礫の山であろうと悲しみに打ちひしがれる人々であろうと、気高さと力強さに満ちている。
旅をしてみたいと夢を語るファトマを写し出す監督自身のスマホは、カイロ、パリ、カナダ、モロッコとさまざまな場所に移動する。相手が渇望する自由を自分が手にしていることへの後ろめたさをファルシ監督は隠さない。この人の場合、それは身を賭して獲得した自由ではあるのだが、そうだとしても。そして画面の向こうの相手に手を差し伸べたくても、それができないもどかしさ。その話になると途端に歯切れが悪くなる監督に対し、ファトマは何度もこう言う。I feel you. だが、寄り添ってくれるだけで十分だからというファトマこそが、セピデに、そして私たちに寄り添ってくれているのではないかと思えてくる。
この映画の最後がどのように締めくくられるかを私たちは知っている。
そして、ファトマのカメラやスマホが映し出したガザの現状が今なお悪化の一途をたどっていることも。無力感にさいなまれる私たちへのメッセージとして、映画の公式サイトには、「あなたにできること」というコーナーがある。
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