
歴史書は多くの場合、中央の動向にそって地方の記録を分析する傾向があります。
本書はこれとは異なり、地域に生きるふつうの人びと、しかも「負の歴史」を生きてきた人々をに焦点をあてて調査した成果です。
まず本書では、満洲移民について取り上げました。私が生まれ育った飯田・下伊那からは、1932年から敗戦間際までに「満洲国」へ農業移民として渡満した人たちが約8,400人いました。人口比では約4.5%(全国0.4%)、そのうち約半数の人々は帰国できませんでした。
渡満した人たちの40%が女性でした。満洲移民の実態は、戦後、公にされることは難しく、「負の歴史」でした。戦後40年近くを経た1990年前後から調査がすすめられ、長野県では『長野県満州開拓史』全3冊(1984年)が刊行しされました。本書では、農業移民を送り出した背景、村毎の相違、信濃教育会と郡市教育会が満蒙開拓青少年義勇軍送出に力を入れたことなど、各村の役場資料、教育会の原史料とともに、帰国者約100名からの聞き取り調査(『下伊那のなかの満洲』全10集、『下伊那から満州を考える』全5集に収録)も用いました。
また、飯田遊廓についても取り上げています。信州伊那谷の山深い小さな町にも、明治初期には地元の有力者や警察署長などが発起人となり、しかも交通の便がない新潟県や名古屋から娼妓を連れてきて遊廓を開業し1956年の売春禁止法が実施されるまで営業していました。飯田遊廓の実態を、楼主が残していた一次史料である「娼妓名簿登録申請書」「契約書」「計算帳」「遊客名簿」や『飯田遊廓細見』などを用いて明らかにしまた。娼妓として買われた女性は、その後も商品として扱われ、平均4年すると他の楼へ移らざるをえませんでした。その間、娼妓は病気の治療費、春と秋には客引きのため衣装代がかさみ、楼主からの借金が膨らんでいます。時には親からお金をせびられたりもしています。いったん遊廓世界に入ると抜け出すことは極めて困難だったのです。
地域の歴史は、「負の歴史」を掘り下げて調査することによってこそ、隠されていた全体像が少しずつ浮かび上がってくるのではないでしょうか。身近な地域史に眼を向けて、新たな歴史の見方が広がっていくことになればうれしく思います。
◆書誌データ
書名 :『地域史をひらく 満洲移民と飯田遊廓』
著者 :齊藤俊江
頁数 :328頁
刊行日:2025/10/29
出版社:本の泉社
定価 :5,500円(税込)
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