わたしの経験を、わたしが語るということ

本書は、移民第二世代である当事者10名が、自らの経験を語り、記述・分析したオートエスノグラフィーの論集である。私はその執筆者の一人として、この本に参加した。
本書の紹介を書きながら、私は「誰が誰の語りをどのように語るのか」という問いを考えた。これまで、私たちの経験は他者によって語られることが多く、その過程で感情や違和感、矛盾はしばしば捨象されてきた。私たちはそれらを捨てずに語る方法として、オートエスノグラフィーを書いた。
本書は、完成された物語というよりも、語り続けようとする過程そのものだと思う。ことばにならなかった感情や、整理されなかった違和感を引き受けながら、他者に届く形にしていく過程である。そして、オートエスノグラフィーを書くことは、これまで捨象されてきた経験や感情が、知として立ち上がる場をつくることでもある。
上野千鶴子氏が指摘するように、「当事者である」ことと「当事者になる」ことは区別される。本書に収められた10名の語りもまた、それぞれが自らの経験を語ることで、その意味や位置を引き受け、語りの中から別の可能性をひらこうとする。当事者が自ら語ることは、経験をめぐる関係を問い直し、これまでとは異なる社会のあり方を「構想」していく営みでもある。上野千鶴子氏の議論に示唆を受けつつ、本書の語りもまたそのような実践として読むこともできる。
その意味で、本書は誰が語り、誰の経験が知として認められ、どのような社会であってほしいかを問い続けてきたフェミニズムとも響き合っている。読者それぞれの経験に引き寄せていただきながら、本書が新たな語りの連なりに加わることを願っている。そして、誰が語り、誰の経験が知として認められ、どのような社会であってほしいか。こうした問いをともに考えていただければ幸いである。

◆書誌データ
書名 :移民第2世代のオートエスノグラフィー――当事者10人による意味世界の探究
著者 :樋口直人, 山崎(王)哲, 大川ヘナン, オチャンテ 村井 ロサ メルセデス, 劉昊, 王昊凡, 吉岡(ヨシイ)ラファエラ, 南誠(梁雪江), 小波津ホセ, 白皛皛(白晧), オチャンテ カルロス
頁数 :448頁
刊行日:2026/03/30
出版社:明石書店
定価 :4180円(税込)