「ばあば」の成長物語なのか
「お孫さんに、『ばあば』と呼ばせている方は本当に『ばあば』っぽいんですよね」。初孫が生まれたときにお祝いの言葉とともにそういった美容師さんの言葉がわすれられない。
孫の愛梨が交通事故を起こしたという詐欺電話にひっかかり、大金を騙し取られた「ばあば」こと時子79才。8年前に夫を見送り、「二階を間借りしている店子みたい」な独身の息子と暮らしている。
夫の死後、喪失感からうつ状態になっていた生活から立ち直ったのは近所で開催されているラジオ体操とそこで出会ったおしゃべり仲間との交流。
ありがちな設定に、これはどういう層を読み手として想定して書いているのかとイラッとしたのは冒頭に書いた「ばあば」くくりに自分が入れられた不快感を思い出したせいかもしれない。
ところで、ずいぶん前になるが、中学受験の国語問題について、「受験にでてくる小説はたいてい主人公の成長物語である。その流れを理解して問題を解くように」という説を夏目漱石研究者の石原千秋さんが書いていたが、これも(年はとっているが)主人公の成長物語と読めるかもしれない(そして孫の成長物語でもある)。
詐欺被害防止のための固定電話の解約期限までの2か月半、孫の助けも借りて、その電話番号0874(おはなし)を「おばあさんを騙す人でなく、おばあさんとお話ししたい人」に知らせて「おはなし電話」を開設する。その電話でのやりとりや、ラジオ仲間との交流の中で時子は自分の心のなかの「寂しさ」と向き合う。
主人公の内面が、おはなし電話でのできごとのほか、孫との関係、娘との関係、お喋り仲間との関係などで描写されるので散漫な感じは否めないが、それぞれの場面でてくる「あるある」で笑えたり、(そしてそのあるあるに対する時子の心の反応の描写が秀逸)楽しめる作品だった。
私は今月、時子が夫と死別した71才になるのだが、大学の同期の友人がお連れ合いを亡くしたことを最近知った。「大変だったのね」という私の言葉に「あまり話したくないの」と答えた彼女の心をこの小説のなかにたびたびでてくる夫がいない寂しさに重ねあわせた。
書名 :おはなしの時子
著者 :朝比奈あすか
頁数 :318頁
刊行日:2026/06/20
出版社:双葉社
定価 :1980円(税込)









