
上野千鶴子が宗教を語る——、瓢箪から駒が出たような本かと思われるかもしれないが、読めばきっと納得していただけるはずだ。
これまであまり語ることのなかった生い立ちや大学闘争のこと、俳人「上野ちづこ」のこと、そして親しい人との出会いと別れを回想するなかで、世の中に「当たり前」に存在している規範や価値に疑念をさし向ける社会学者として、スピリチュアルなものなど感じることも信じることもできないと言い切る。
プロテスタントの厳格な父のもとに育ったものの、反抗心から教会に行かなくなり、そこから著者の宗教遍歴は始まった。学校の先輩だった寺の息子に進められた仏教書の衝撃、大学で出会ったウパニシャッドの深遠さ、カイラス巡礼者の調査、そして介護と看取りの現場に研究者として入っていくまでの半生を綴った回想は、洞察に富んだ語り口でとてもスリリングだ。
近年、宗教系の大学で「臨床宗教師」が養成され、終末期医療の現場で患者の悩みを聞いたり、被災地での傾聴ボランティアに参加したりといった活動が活発になっている。さらに医師や看護師といった医療職まで、死を前にした患者の悩みに向き合おうと学会でディスカッションが行われることもあるという。そこに著者は、超越的なものによる救済よりも、尊厳ある生を確保することが責務だという。
著者は個人的なことを書くのを躊躇い続けていたし、自分の宗教遍歴を書いたところで誰が読むのだろうと疑い続けていた。しかし個人的な経験を通して、その先にある世の中を提示して見せる上野千鶴子の文筆の力が遺憾なく発揮された本書は、真のページターナーと言って差し支えないと思う。
◆書誌データ
書名 :スピリチュアル嫌いの宗教遍歴 そして神も仏もいらなくなった
著者 :上野千鶴子
頁数 :192頁
刊行日:2026/09/15
出版社:春秋社
定価 :2200円(税込)









