高市政権下で法務省「売買春に係る規制の在り方検討会」が開催されたことをご存じだろうか?審議会ではなく、首相の私的諮問機関である「検討会」の体裁をとっている。法学者、弁護士、心理カウンセラー等からなるその検討会の報告書が、9月17日に公開された。それを読んで唖然とした。
 1956年に成立した売春防止法が、売春そのものを「禁止」しておきながら「売る側」だけに罰則規定があり、「買う側」に罰則のない片面性は長く指摘されてきた。70年間手つかずだった売防法をアップデートしようとする検討会の意図そのものには意味がある。そのあいだに日本は世界に冠たる「買春王国」になっていたからだ。
 だが、検討会は「性交」の定義からつまづく。売防法は膣へのペニス挿入行為だけを「性交」と定義し、他方、同じ時期に成立した風営法ではありとあらゆる「性交類似行為」がサービス業務として許可されている。2023年に成立した改正刑法では、「不同意性交等罪」のもとに、膣へのペニス以外の挿入に加えて、膣以外の身体の部位を使った性行為がすべて「性交等」に含まれている。性交と性交類似行為の線引きはむずかしく、当事者に与える影響にも大きな違いがない。「検討会」は処罰の片面性を両面性に変更して、「買う側」も処罰することに「異論がなかった」とするが、実態は現状追認と変わらない。密室のなかでおこなわれる性サービスのうち、「本番」に至ったかどうかを誰も確認することはできず、現行犯逮捕をすることもできないからだ。
 検討会の委員のひとり、若林翔弁護士は、新宿歌舞伎町の風営業の顧問弁護士として知られているが、彼は性産業を規制すると、風営法届出3万3890件の事業所、そこで働く女性215万人、市場規模2~5兆円の市場に影響が出るという。「大きすぎてつぶせない」というリクツだが、戦後、風営法のもとに、性産業を野放しにしてそこまで大きくしたのはいったい誰なのか。
 需要なくして供給なし。調査によれば、生涯に一度でも金銭を対価に性サービスを買ったことのある日本人男性は48.3%にのぼる(注*)。およそ2人に1人。日本は「カネで女が買える」ハードルのすこぶる低い社会なのだ。そのうえ円安ニッポンでは、「安い、安い」と外国人観光客が歌舞伎町にたむろする。
 売春者非処罰・買春者処罰で知られる「ノルディックモデル」を1999年に導入したスウェーデンでは、法律の施行前と施行後とで、買春経験率が13%から7%へと低下、あきらかに市場の縮小効果があったという。
 同じく「ノルディックモデル」を2016年に導入したフランスで、この法律の成立に尽力したモード・オリヴィエさんは「性売買はジェンダー平等と決して両立しない」と断言する。
 男たちが「カネで女が自由になる」という「常識」を持っている限り、ジェンダー平等は達成されないだろう。人は誰でも「幸福追求権」を持っているが、それは他人の人権を侵害しない限りにおいて、である。たとえ資本主義市場においても、「他人の人権を侵害する権利」を買うことも、「他人から人権を侵害される権利」を売ることも、どちらも許されない。買春が女性の人権を侵害する行為であるという社会的認識が成立することがまず必要であることを、オリヴィエさんたちは教えてくれる。

注*データの出典はこちら
https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/PR/2023/release_20230227.pdf

WAN主催10月4日「ストップ性売買! 法務省『売買春に係る規制の在り方検討会』報告書を読む」アーカイブ(一般公開)はこちら
https://wan.or.jp/article/show/12734

京都新聞2026.11.1朝刊1面「天眼」から、新聞社の許可を得て転載