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映画評:『シリアの花嫁』          濱野千尋        

2009.09.10 Thu

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 ゴラン高原?えーと、どこ?正解はシリア南部からイスラエル北部に広がる高原で、元シリア領、今は国際的には認められていないがイスラエル占領下という複雑な土地。そこに住むドゥルーズ派という少数イスラム民族には“我々はシリア人だ!”という気位があり、イスラエル国籍を取得せず、パスポートも“無国籍”。彼らがもし移住してシリア国籍を得ると、国交を断絶しているイスラエル領内には二度と戻れない。
 島国日本にはない状況だが、テーマは結婚式とあって分かりやすい。ドゥルーズ派の女性とシリア人男性の結婚、家族との別れについて、万国共通の女心を軸に描いている。新しい人生を歩む花嫁物語として普遍的で、政治や宗教など抜きに感情移入できる。個人の幸福と国家の理論という単位の違う二つの問題が結婚によって身近になり、浮き彫りにされる。主人公の花嫁の幸せを考え始めると、無口になるかため息が出る。ストーリーテリングの面白みより中東の一面を知らせる情報性に価値がある映画。

<あらすじ>
 ゴラン高原はイスラエル占領下にある元シリア領。そこに住む女性がシリアの男性と結婚することに。シリアとイスラエルは国交を断絶しているため、結婚後、花嫁は故郷には二度と戻れない。現実をもとにしたフィクション。

(はまのちひろ ライター)
(『新潮45』2009年3月号 初出)








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