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映画評:『リダクテッド 真実の価値』 上野千鶴子
2009.11.02 Mon
いかにも素人っぽい映像の積み重ねが迫真性を増す。意表を衝くドキュドラマ。
こういう戦争物のドキュメンタリーにわたしは弱い。マイケル・ムーアの『華氏911』も見たし、エロール・モリスの『フォッグ・オブ・ウォー』もよかった。へたなヒューマン戦場ドラマより、よっぽどおもしろい。 いや、ちがった、これはドキュドラマ、つまりドキュメンタリーに見せかけたフィクションだ。だが、事実や報道の引用を積み重ねる手法は、まんまドキュメンタリーに見える。
舞台はイラク派遣の米兵キャンプ。ヒスパニック系の兵士が、南カリフォルニア大学の映画学部へ入学するために、戦場のドキュメンタリーを制作するという設定がよい。手ぶれするデジタルビデオや兵士を写す監視カメラの映像、You Tubeの引用、故国の妻とのスカイプでの交信など、素人っぽい映像の積み重ねがかえって迫真性を増す。
検問所勤務の緊張した、だが退屈な兵士の日常生活のほかは、大規模な戦闘シーンもないし、登場人物も限られている。占領地で起きた米軍兵士による14歳の少女の強姦殺人事件を題材にとったこんな映画に、アメリ軍が協力するはずがない。安上がりに作られているのに、かえってリアル。実際、お手軽なビデオで撮影されたこの映画の制作費はたったの500万ドル。逆に言えば、IT技術を駆使すればこういう映画が、安価に制作できることを証明する。意表を衝いたIT時代のドキュメンタリー、おそるべし。
出演するのはすべて素人。ふつうの若者が徐々に常軌を逸していく戦場の狂気に説得力がある。武器を手にした彼らは、何でもアリ、の狂犬だ。アメリカは今や世界最強の軍事力の持ち主。だれもとどめる者がない。こいつらに凶器を持たせるとどんなに危ないかが、ひしひしと伝わってくる。イラク人にとってはフセインよりアメリカの方がもっと災厄だっただろう。
「リダクテッド」は、黒塗りで削除された編集済み記録のこと。日本語に訳されていないが、「検閲済み」とでもすれば、もっとアイロニーは強烈だったのに。最後にたたみかけるように出てくるイラク人犠牲者の映像だけはほんもの。これも訴訟をおそれて目隠しした編集済み映像だ。
事実より映像の編集で見せるこの映画で、監督のブライアン・デ・パルマは2007年のヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した。
監督:ブライアン・デ・パルマ
制作年:2007年
制作国:アメリカ・カナダ合作
出演:パトリック・キャロル、ロブ・デヴァニー、イジー・ディアズ、マイク・フィゲロア
配給:アルバトロス・フィルム
(クロワッサンPremium 2008年11月号 初出)
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