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映画評:『歩いても歩いても』 上野千鶴子
2009.11.17 Tue
ほんとうの主人公は、樹木希林演じる「昭和の母」。主演女優賞をあげたい。
昭和のホームドラマである。一瞬小津のリメイクかと思った。
この家族は最初から欠落を抱えている。できのよい、将来を嘱望された長男は、溺れかけた子どもを助けようとして水死。その命日に、父親とそりの合わない次男が再婚した子連れの妻を伴って帰ってくる。その家族再会の一日を描いたものだ。 後継者のいない地方都市の開業医。職住一致のしもたや風のたたずまい。内科・小児科、横山医院。よくこんな建物を見つけたものだ。
家族はいつもどこかしらずれつづける。失業中の次男はそれを父親には知られたくない。甘ったれの娘は、自動車営業マンの夫とともに、実家を二世帯住宅に改築して同居しようと提案する。妻は入浴中の夫の着替えを整えながら、当時の流行り歌にひっかけて、40年も前の夫の浮気を、自分が知っていることを顔も合わせずに告げる。
気の弱そうな次男を演じる、「メンズノンノ」の表紙モデルだった阿部寛が彫りの深いソース顔だとか、老父の原田芳雄が、艶のある肌と精悍な声でとても72歳には見えないとか、違和感はある。携帯電話が出てこなければ昭和の話に思えてしまう。小津を想起したのは、連れ子のいる再婚した妻を演じる夏川結衣が、原節子ばりの美人でしかもいいひと、そして昭和30年代風のあまりにレトロなファッションだからだ。回顧談ではないはずなのに、凍結した時間がガラスケースに保存されているようで、かえって「いま」のリアリティを感じられない。
それでもいいのだろう。この映画のほんとうの主人公は、樹木希林演じる「昭和の母」だからだ。しっかり者で家事を仕切り、夫に浮気されながら、子ども三人を育て上げ、最愛の息子を喪った。その生活力、忍従、あきらめ、うらみ、悪意、強さと哀切さ……それをすっかり彼女は演じきった。見終わったとき、彼女以外には考えられないと思えるほどにはまり役。主演女優賞をあげたい。
タイトルの『歩いても 歩いても』は、家族は終わらない、ともとれるが、この映画は喪われた「昭和の母」へのオマージュ。歩いても歩いても、もはやあの時代の女には届かない。ということを痛切に感じさせればよいのだろう(と思うことにした)。
『誰も知らない』の是枝監督は、子どもの描き方がうまい。この繊細で屈折した子どもこそは、平成のリアルな子ども像だ。
監督:是枝裕和
制作年:2008年
制作国:日本
出演:阿部寛、夏川結衣、YOU、樹木希林、高橋和也、寺島進、原田芳雄
配給:シネカノン
(クロワッサンPremium 2008年8月号 初出)
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