エッセイ

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「旅は道草」その7 ねこに会いに行く。パリ/ロンドン/ニューヨーク やぎ みね

2009.11.27 Fri

 ある日、一枚のねこのポストカードが目に止まった。Photo Yukie Yoshibaとある。FAUCHONをバックに、大きなねこが座っている。面構えといい、威風堂々たる姿といい、もうすっかり心を奪われてしまった。「このねこに会いたい」と思った。そしてパリへ。 カルチェ・ラタン地区、パリ第6大学の裏通り、小さなホテルの屋根裏部屋に宿をとる。すぐにFAUCHONへ。写真と同じアングルに、ねこを探すが、それらしい姿はない。もしやと思い、FAUCHONの女主人にポストカードを見せる。「ああ、このねこね。2年前まで、バンドネオンのおじいさんと一緒に、あそこに座っていたわよ」。ああ、やっぱり、いたんだ。

 オペラ・ガルニエ近く、街角に手風琴を回すおじいさんが立っている。そばに木造りの小さなベッドがしつらえてあり、犬とねこが2匹、仲良くベッドインしている。通りすがりの人たちが、笑いながら籠にコインを入れていく。

 リュクサンブール公園を通り抜け、パンテオンへ。近くの本屋に入ると、白と黒のブチが、並べた本の上を、わがもの顔に闊歩していく。きっと、このねこ、本が好きなんだろうな。パリは、ねこが似合う街だ。

 ロンドン・ブルームズベリー地区は古い文人たちの街。ヴァージニア・ウルフの旧居を訪ねるのも、ロンドンへの旅の理由の一つ。こじんまりした家は、歴史建造物としてイングリッシュ・ヘリテージに指定されていた。近くのラッセル・スクエア前、MENTRO HOTELに宿をとると、黒猫が、階段からトットットッと降りてきて出迎えてくれた。名前は「ジャスミン」という。

 ヴェネチアに入った日は、ちょうど年に一度のゴンドラ・レガッタの日。どこも宿がいっぱい。ようやく改修中のホテルが泊めてくれた。祭のあと、ひっそりとした海を、貸切りボートでムラノ島へ向かう。ラグーンに囲まれた島々は、車も通らず、ねこたちが、のんびり、ゆったり、歩いている。子猫を抱き上げると、ちゃんとカメラに向かってポーズしてくれた。

 ニューヨーク5番街、W57St.ホームレスの若いブラックの人が、ねこを2匹、前にして座っていた。「このねこ、撫でてもいい?」「OK」と、にっこり。ニューヨークの冬は寒い。あの若い人と、ねこたち、この冬も元気だろうか。
 
 どんな旅も、いつもねこたちが、あたたかく迎えてくれる。レストランのテーブルの下で。ふらりと現れる路地の奥で。そして私は、ねこに守られているのではないかと、ふと思うことがある。ある暗い夜、自転車のスピードを上げて走っていた。大きな段差に気づかず、自転車が大きく傾いた。もんどりうって、身体が宙に浮いた瞬間、思わず、「ねこになれ!」と呪文を唱えた。すると不思議。転びもせず、怪我もせず、うまく着地できたのだ。ねこが守ってくれたとしか、思いようがない。

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カテゴリー:旅は道草

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