エッセイ

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1968

<女たちの韓流・33>「威風堂々な彼女」~自らの力で人生を切り拓く女性~ 山下英愛

2012.10.05 Fri

 2003年のMBCドラマ「威風堂々な彼女」(水木ミニシリーズ、全20話)は、恵まれない環境で育った女性が、次から次へと彼女の身に押し寄せる苦難を乗り越えて、ついには会社の社長になるという、女性の成功物語である。冬ソナのような、ドラマ全体に流れる抒情的な美しさはないけれども、このドラマには喜びと悲しみ、そして飛び切りの笑いがある。その上、主人公ウニのキャラクターは、堂々としているせいか、見ていて爽快だし、元気も出る。冬ソナのユジンのような受け身的な女性とは対照的なタイプのキャラクターといえる。

 俳優は、主人公のウニをペ・ドゥナ(裵斗娜1979~)が、姉役のクミをキム・ユミ(1979~)が演じた。また、ウニの初恋の人で、心の温かいジフンをカン・ドンウォン(1981~)が、アメリカ帰りの性格の悪い社長ソ・イヌを、歌手兼演技者のシン・ソンウ(1968~)が演じた。脚本は、当時「ハッピートゥギャザー」(SBS1999)、「ロマンス」(MBC2002)などで若者の感覚をうまく描くと評されたペ・ユミ(1971~)が書いている。昨年は「きらきら光る」(MBC)で作家賞(MBC演技大賞)を受賞した。演出は、ミニシリーズが初めてという若い駆け出しのキム・ジンマンPDが担当した。

出生の秘密

 主人公のウニ(銀姫)は、地方で農作業を営む貧しい家庭の娘として生まれ育った。双子の姉クミ(金姫)とは外見も性格も似ていない。姉はもの静かな秀才タイプで打算的なのに対して、ウニは活発だ。勉強は苦手だが、感情を率直に表現し、情にも厚い。曲がったことは嫌いで、打算的ではない。母親のキルニョ(俳優:金海淑)は娘たちが幼い時から、体の弱いクミは大事にしたが、ウニにはいつも家事労働をさせ、こき使った。父親が亡くなって一層貧しくなると、ウニを実業高校に転校させてしまった。それでもウニは母親を愛し、クミとも仲良く過ごして生活していた。

 二人が高校卒業を間近に控えたある日、家にテソングループのキム会長が訪ねてきたことで、この姉妹の運命は大きく変わる。キム会長はその昔、息子の結婚に反対し、二人を無理矢理別つために息子を軍隊に入れた。だが、息子は軍隊で死に、その恋人は身重の体で行方不明になってしまった。その女性が道端で産気づいているところを、偶然通りかかったキルニョの夫が助けて産み落としたのがウニだった。だが、母親はウニを産んで間もなく死んでしまう。図らずも同じ日に、キルニョはクミを産む。貧しい夫婦はウニを見捨てず、双子として育てることにしたのだった。

 テソングループの会長の出現に驚いたキルニョは、結局クミを“あなたの孫だ”と言って差し出してしまう。自分の実の娘を貧しさから救ってやりたい、という思いからである。そんなキルニョの心の内を知りもしないクミは、自分がキルニョの実子ではないと知ってショックを受けつつも、財閥の孫娘という地位が転がり込んできたことに内心目がくらむ。一方のウニは、自分が母親から疎んじられた理由がここにあったのかと思って悲しんでいたところ、母親が実子でもないクミを大事に育てたことを知って感動する。

成功への道

 その後ウニは、クミが去って気落ちした母親と、幼い双子の弟たちのために高校をあっさり中退して働く。また、結婚しようと約束した男に捨てられて、未婚の母にもなってしまう。何とか生きる糧を求めて家族でソウルに上京し、洗濯や靴洗いの仕事をしながら懸命に暮らしていた。ところが、キルニョが体調を崩して入院し、その後、肝臓がんであることがわかる。ウニは必死で職探しをした挙句、倒産寸前の食品会社の経理として就職。そこで、やる気のないダメ社長のソ・イヌを励まして、会社を再建するために中心になって頑張るのである。

 一方、テソングループの孫娘として暮らしていたクミは、テソングループの後継者になろうと必死に働く。叔母とその娘からさんざん疎んじられるが、次第に祖父に認められるようになる。だが、キルニョがウニの代わりに自分を孫娘にしたことを知ってからは、その事実をひたすら隠そうとする。血液型が知られることをおそれ、キルニョへの肝臓移植も拒否する。ウニが祖父と会うことを妨害し、食品会社を立て直そうと頑張るウニの足を引っ張るのだ。また、祖父がイヌを後継者として考えていることを知ってからは、ウニとイヌを仲たがいさせ、イヌをお金で釣って自分と結婚させようとする。ウニもクミも成功への道を歩もうとする点では同じだが、その方法が全く違うのである。

新しいキャラクター

 このドラマの新しさは、やはり主人公ウニのキャラクターであろう。出生の秘密や姉妹が入れ替わる話はよくあるが、たいていの場合、主人公の女性はおしとやかで賢くて、きれいな出で立ち、というのが定番である。そして、その主人公を貶めようとするのは活発で積極的な女性として描かれる場合が多い。このドラマとよく似た内容のドラマ「秘密」(MBC2000)でも、有名デザイナーミョンエの実の娘は、静かな性格のヒジョン(キム・ハヌル)であり、実の娘ではないことを知りながら、その振りをし続けたジウン(ハ・ジウォン)は性格のきつい女性として描かれる。「真実」(MBC2000)のジャヨン(チェ・ジウ)とシニ(パク・ソニョン)、「ガラスの靴」(SBS2002)のソヌ(キム・ヒョンジュ)とスンヒ(キム・ギュリ)も同様である。

 これらのドラマは、たいてい“シンデレラ物語”と通底する特徴をもっている。可憐な女性主人公が周囲からいじめられるが(継母とその娘の場合が多いが、他のケースもある)、結局は王子様に見初められてハッピーエンドになる、というものである。実は韓国にも、このシンデレラ物語と瓜二つの“コンジュィ、パッジュィ(大豆ねずみ、小豆ねずみ)伝”という伝来説話があり、こうしたドラマのことを“コンジュィ、パッジュィ型”と呼んだりもする。そして、「威風堂々な彼女」のように、自らの力で人生を切り拓く女性主人公が登場するものを、“女人発福型”ドラマと言う(ハン・ソジン『説話の海から汲み上げた韓国ドラマ』韓国学術情報2005)。

女人発福説話

 女人発福説話の代表的なものが、済州島に伝わる“カムンジャンアギ(감은장아기)”という物語である。その物語とは、“裕福になった家族の父親が、三人の娘に「お前たちは誰のおかげで暮らしているのだ?」とたずねた。すると、計算高い長女と次女は、「お父様のおかげです」と答えたが、三女のカムンジャンアギは、「自分のおかげ」と答えた。父親は怒って三女を家から追い出してしまう。カムンジャンアギは放浪先で朴訥な孝行息子(炭焼き青年の場合もある)と結婚し、金を発見する。夫にそれを売るよう指示し、大金持ちになる。そして、自分を追い出した後、乞食になった父母を探し出して面倒を見、幸せに暮らした”というものである。

 ハン・ソジン氏の研究によれば、90年代以降のトレンディドラマの多くには“コンジュ、パッジュィ型”が多く、“女人発福型”が現れるのは2000年代以降のことだそうである。それはやはり、90年代後半以降の女性の社会進出の高まりと、家族の民主化などが反映しているのだろう。また、韓国ドラマには、上記の説話以外にも“真仮争主説話”(偽物が本物の振りをする)、“烈説話”、“継母説話”、“英雄説話”、“大母説話”など、昔から伝わる馴染み深い物語の要素がストーリーに含まれているという。ちなみに以前紹介した「太陽の女」(KBS2008)も、いくつもの説話的要素を上手く取り入れたことが高視聴率につながった、とハン氏は分析している。ドラマを見ながら、こうした説話との関係を考えるのも面白いかもしれない。

俳優ペ・ドゥナ

 このドラマは何と言ってもウニを演じたペ・ドゥナの魅力に支えられている。1998年に19歳でデビューしたペ・ドゥナは、“演技力で勝負してきた俳優”と評される。このドラマに出演する前、映画「フランダースの犬」(2000)、「子猫をお願い」(2001)、「がんばれ、クムスン」(2002)などに出演し、演技力を認められた。それが下地となって、幅広い演技力が求められるウニ役に抜擢されたという。演劇俳優のキム・ファヨンを母にもち、幼い頃から演技の何たるかを身近で習得してきたことが、彼女の強みでもある。

 ペ・ドゥナはその後、大ヒットした韓国映画「クェムル」(2006)や日本映画「空気人形」(2009)などでも活躍し、俳優として成長し続けてきた。最近では、卓球の南北選手団の実話をもとにした映画「コリア」(2012)で朝鮮民主主義人民共和国の代表選手リ・ブニ役を見事に演じた。さらに、ハリウッドにも進出し、来春日本で封切予定のSF映画「クラウド アトラス」にも出演している。今後が楽しみな俳優の一人である。

写真出典

http://www.imbc.com/tv/drama/her/html/peo_05.html

http://ask.nate.com/qna/view.html?n=6395104

http://www.navibook.co.kr/nv/_goods/goodslistXetail.asp?nsn=2213088

http://www.nemopan.com/6022304

カテゴリー:女たちの韓流

タグ:ドラマ / 韓流 / 山下英愛

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