エッセイ

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<女たちの韓流・40>「アジュンマ」(MBC 2000~01)~両性平等放送賞歴代受賞作② 山下英愛

2013.05.05 Sun

初めての大賞受賞ドラマ

 5月韓流2001年の第3回男女平等放送賞で大賞に輝いたのがドラマ「アジュンマ」(全54話)である。ドラマが大賞を受賞したのはこの時が初めてだ(歴代受賞作については前回を参照してほしい)。女性省が発表した選定理由は以下の通り。

 「このドラマは、今日の母であり妻であり姉(妹)であるアジュンマ(おばちゃん)が存在する意味を堂々と打ち出すことによって、これまで放送を通して戯画化されてきたアジュンマに対する否定的な認識を変え、相対的に無視されてきたアジュンマたちの知的能力を、大学教授である夫の偽善と卑屈さに対比させて、彼女たちに対する社会的偏見に挑戦し、興味を引き出すことに成功した」(女性省サイト)。

“アジュンマ”たちの反乱

 韓国では、アジュンマ(おばちゃん)を“女でも男でもない第三の性”と表現したりする。女はアガシ(未婚の娘)とアジュンマに二分され、結婚した女性や適齢期を過ぎた女性はみなアジュンマの部類に放り込まれてしまう。しかもアジュンマといえば、“品も教養もなく、性的魅力もなく、厚顔無恥な存在”というイメージがつきまとう。そのステレオタイプは、髪にくるくる巻きのパーマをかけ(少しでも長持ちさせるため)、モンペをはき(美的なことは放念し)、バスや地下鉄では座席めがけて突進し(自己中心的)、関心事は自分の家族のことばかり(家族利己主義)、というものだ。

 これぞ韓国の家父長制がつくり上げてきた女性像の一つである。悲しいかな、女性もまたこうした認識を内面化させられ、アジュンマを軽蔑し、アジュンマと呼ばれることを忌み嫌ってきた。しかし、ちょっと待った!アジュンマに込められたイメージは、本当に女性たちの実態を反映しているのだろうか?それに、これまで必死になって家族を、社会を、国を支えてきたのは誰なのか?いうまでもなくこの世のアジュンマたちである。それなのにアジュンマを見下すなんてけしからん!こんな女性たちの思いを代弁しているのがドラマ「アジュンマ」なのだ。

アジュンマの自立を描く

 5月 2このドラマの主人公はオ・サムスク。この名前はあの“キム・サムスン”よりもやぼったい響きがする。サムスクは母子家庭で育ち、子どもの頃から兄のいいなりだった。夫をはやく亡くした母親が、“息子の出世が生きる道”とばかりにサムスクの兄を王様のように大事にしたため、サムスクも自然と兄の“しもべ”のようになってしまったのだ。貧しい家計の中で、サムスクは高校まで通うのがやっとだったが、兄のイルグォンは大学、大学院へと進学した。

 そんなある日、サムスクは、兄の友人チャン・ジングからむりやり性関係を強いられる。ジングは、サムスクが自分にもやさしくしてくれることをよいことに、失恋の腹いせをサムスクに向けたのだ。サムスクはそれで妊娠し、兄の知るところとなる。激怒した兄がジングをこらしめ、結局、ジングに責任をとらせた。

 5月 3サムスクはこうしてジングと結婚するが、婚家ではサムスクを家政婦のように扱った。姑は自分の娘の婚家で祭祀があると、サムスクに向かって娘の代わりに料理をつくれと命じた。またサムスクにあらゆる家事を押しつけ、自分は絵を描きながら優雅に暮らした。それでもサムスクは黙々と耐えた。その内、大学の講師だった夫が裏金をつかって教授の地位を得て、サムスクは教授の妻となった。子どもにも恵まれ、はたから見れば申し分のない生活だった。

  だが、夫からはいつも高卒だからとバカにされた。妻を見下していたジングは、大学時代の初恋の女性で他の人と結婚したジウォンが、シングルになって留学から戻ってくるや、たちまちジウォンに夢中になった。サムスクがその関係に気づいて文句を言うと、ジングは開き直って、ますますジウォンとの関係を深めていった。

 当初、夫にしがみついていたサムスクは、夫が改心しないと知るや、ついに離婚を決意する。夫が話し合いに応じないでいると、サムスクは堂々と慰謝料と子どもの養育権を要求して離婚裁判を起こした。そして、経済的に自立しようと、苦労して料理士の資格を取り、働き始める。

 ジングと舅姑は、サムスクが高額の慰謝料を要求してくるや、たちまち態度を翻してサムスクに離婚を思いとどまらせようとする。だが、サムスクの決心は揺るがない。裁判官もサムスクの味方をしてくれた。サムスクは要求通りの判決を勝ち取り、ジングは慰謝料として大金を支払うことを命ぜられる。ジングの父親は新たな嫁になるジウォンの経済力をあてにして、慰謝料の問題を解決しようとするのだが…。

アジュンマ運動

 アジュンマとして見下されてきた女性が、さまざまな困難と立ち向かい、ついには自分の人生を見出して自立してゆく過程を描いたこのドラマは、女性たちの圧倒的支持を得て、最高視聴率33%を記録した。この人気を後押ししたのが、1999年から本格的に起こった“アジュンマ運動”の気運である。現実とドラマが相乗効果を発揮して、その後、ますますアジュンマが社会のキーワードとして注目されるようになったのだ。

 周知の通り、80年代末以降、韓国社会は民主化に向けてドラマチックに歩み始めた。そして女性たちもこの時期に家族や社会の女性差別と男尊女卑的慣習に挑戦状をたたきつけた。90年代はまさに女性運動が大きく盛り上がり、90年代のおわりになってその勢いが“アジュンマ”運動をも生み出すようになったのである。

 5gatu 41999年は“アジュンマの年”と言われるほど“アジュンマ”という言葉がマスコミをにぎわした。その一つのきっかけは、写真作家オ・ヒョングン氏が「アジュンマ」をテーマとした写真展を開催(4月)したことだった。また、インターネットゲームの有害性をめぐって、女性たちを中心とする市民モニターと、ゲーム愛好者の若者たちとの間に起こったネット上の論争も“アジュンマ”言説に火をつけた。

 韓国の「女性新聞」(1988年創刊)やフェミニストたちも、この頃から“アジュンマ”をキーワードにした活動を積極的に繰り広げている。99年5月、女性新聞紙上に掲載された討論会「アジュンマたちよ、名誉回復に立ち上がれ」はその皮切りだった。“アジュンマが育てるアジュンマ連帯”が組織され、同年から「アジュンマが選ぶ本当に健康な世の中大賞」をつくった。翌2000年には“辛口アジュンマ”たちによる活動が、女性新聞の協力を得てネットを通して始まった。女性新聞は、アジュンマフェミニストを謳う@ZOOMAを創刊し、アジュンマ祭りやアジュンマドットコムなどを組織して、オンラインとオフラインで様々な活動を展開した。

 アジュンマドットコムは5月31日を“アジュンマの日”と定め、毎年アジュンマ祭りを行っている(2000~)。また、女性新聞が主催して、女性たちのマラソン大会も開くようになった。初年度は5000人だった参加者は、今ではその三倍になっている。2000年代はこうしてアジュンマたちを主人公とする活動が爆発的に増えたのである。このドラマはそんな時代の流れを後押しすることになったのだ。

俳優たち

 主人公オ・サムスクを演じたウォン・ミギョン(元美京1960~)、チャン・ジングを演じたカン・ソグ(1957~)、その他、兄(キム・ビョンセ:金秉世1962~)の友人を演じたソン・スンファン(宋承煥1957~)は、80~90年代の人気俳優だった。

 5月5ウォン・ミギョンはキム・スヒョン脚本の「愛と真実」でチョン・エリの妹役で出演して注目を集めた。多くの映画にも出演しているが、私が印象深くみたのは「ただあなたが女であるという理由だけで」(監督キム・ユジン、1990)である。1988年に実際に起きたピョン・ウォルス事件を映画化したものだ。ウォン・ミギョンが演じた主人公の主婦は、夜道で二人組の男性に襲われ、性暴行をうける。主婦は抗う過程で男の舌を噛んで傷つけるのだが、それで告訴され、拘束されてしまう。その裁判闘争を描いた映画だが、この事件は韓国の性暴力追放運動の火付け役となった。

 5gatu 6夫のチャン・ジングを演じたカン・ソグは、1986年の名作映画「冬の旅人」で、主人公の不運な青年ミヌを演じて一躍人気スターになった。ジング役では、ミヌとは違って適当に計算高く、危機の前では弱音をはく俗物的な男性を演じた。韓国の中年男性の本音をあまりにも上手く演じたおかげで、再びカン・ソグの人気が沸騰した。ドラマが終わってから、梨花女子大学に招かれてジング役として講演までしている。ちなみに、最近は夫婦の問題を取り上げて診断するドラマ「夫婦クリニック:愛と戦争2」で、調停委員長役として登場している。

 5gatu7ところで、このドラマを制作したのは、脚本家チョン・ソンジュ(写真1956~)と演出家のアン・パンソク(1961~)である。チョン・ソンジュ氏は梨花女子大学家政学科出身。1979年の朴正煕大統領時代に、東亜日報社の新春文芸戯曲部門に入選し、作家活動を始めた。反政府的な内容の戯曲だったそうだ。その後、ラジオ番組の台本などを経てドラマの脚本家になった。1987年の青少年ドラマ「青い教室」を皮切りに、「バラともやし」(1993)、「シンデレラ」(1996)、「追憶」(1998)など、多くの注目作を書いている。昨年(2012)、「アジュンマ」の演出家と再びコンビを組んで「妻の資格」(全16話、JTBC)を制作した。今年は絶対このドラマを見ようと思っている。

写真出典

http://www.womennews.co.kr/news/35938

http://cue.imbc.com/Common/Publish.aspx?Idx=3845#

http://news.donga.com/3/all/20010321/7665393/1

http://www.neolook.net/archives/20050423c

http://blogimg.ohmynews.com/attach/21532/1233711415.jpg

http://news.donga.com/3//20010507/7686100/1

http://article.joinsmsn.com/news/article/article.asp?total_id=10120692

カテゴリー:女たちの韓流

タグ:ドラマ / 韓流 / 男女平等 / 山下英愛