2015.01.20 Tue
思いがけない「道草」の旅に出よう。
見知らぬ国々を訪ねて、どんな出会いが待っているかは、行ってみてのお楽しみ。
ひとときの私の「非日常」は、かの地の人々には変わらぬ「日常」。邪魔をしないように、そっと歩いて受け入れてもらうのが「異邦人」としての旅人の作法だ。
市場へ行く人の波に 身体を預け
石畳の街角を ゆらゆらとさまよう
祈りの声 ひづめの音 歌うようなざわめき
私を置き去りに 過ぎてゆく白い朝
時間旅行が 心の傷を
なぜかしら埋めてゆく 不思議な道
あなたにとって私 ただの通りすがり
ちょっとふり向いてみただけの 異邦人
(作詩・作曲・歌/久保田早紀)
70年代末の久保田早紀のヒットソング。このフレーズはポルトガルの石畳かしら、トルコのモスクから流れるコーランの響きかなと、旅の思い出に重ねて歌を聴く。
日本を出発、異国の空港に降り立つ。キリッとした空気が肌にふれるのが心地よい。誰も私を知らない地に身をおき、さあ、これから旅の始まり、始まり。
行きたい国を決めたら、まずは「地球の歩き方」を読む。喫茶店の片隅で試験勉強さながら赤ペンを入れていく。その国の気候風土、歴史、最近の情報を知り、なによりも地図をきちんと頭に入れておく。
このあたりがいいなと宿に印をつけ、空港からホテルまでの行き方を調べる。ホテルは予約しない。たとえフロントで断られても「3日泊まるから、だめ?」といえば大抵OKしてくれる。ランクは二つ☆まで。シャワーのみ。部屋に不具合があっても文句はいわない。
めざすポイント地点へはバスや地下鉄、市電やローカル線など公共交通機関に乗って。切符の求め方は国によってさまざま。1日クーポンや高齢者割引もあったりする。乗り降りするうちに町の景色がだんだんと見えてくる。あとはひたすら歩くだけ。市場の近く、下町界隈を歩くと、町のにおいや住む人々の声も聞こえてくる。路地からひょっこりネコが顔を出す。道に迷ったら、すれ違う人に尋ねれば、きっと教えてくれる。
10~15日間の旅。格安航空券+ホテル代、食費と、ささやかなお土産を入れて予算は20万円ほど。身軽に、小さなスーツケースとリュックに歩きやすい靴と。足りないものは現地で調達する。
格安航空券はいいんだけど、南回りは時間がかかる。シンガポールでトランジットに8時間、夜中のドバイで3時間。早朝にやっとイスタンブールに着く。
イスタンブール~マルタ往復も大変だ。行きは夜中の3時発、帰りも早朝着。始発の地下鉄が動くのを待って空港で仮眠。トラムヴァイ(市電)に乗り換えてボスポラス海峡が見えるスィルケジ駅裏の宿へたどり着く。
偶然にも、その日は年に一度のパリ発オリエント・エクスプレスが終着駅スィルケジに到着の日だった。慌てて駅へ走って、貴婦人のように美しい列車をカメラにおさめた。
もともと海外に行ったことがなかった私が旅に出るようになったのは40代後半。
精神科医の島崎敏樹の『生きるとは何か』だったかな、人は旅に出る直前、馴染んだ世界から根が離れるような不安にかられるという一節があった。旅立ちは、ある意味エネルギーがいるということか。そんな感覚を私も覚えたことがある。
旅には用心棒がいてくれると心強い。ツレは7歳年下の同じバツイチの男友だち。旅の極意は彼から教わった。
博多で山陽新幹線運行開始の頃、旧国鉄の技術者として働いていたが、分割民営化の国労潰しに嫌気がさし、30代で辞めてヨーロッパ一周の旅に出る。帰国後、弟が大学に通う京都に、ふらりとたち寄り、京都の街角でたまたま出会って、もう20年以上たつ。
群れるのが大嫌い。一人で生きていくのが何よりいいという。
北欧のフィヨルドの絶壁の地に張りつくように住む人々。アイルランドを自転車で走れば、荒涼とした道は草木もなく岩ばかり。その日、その日を楽しく暮らすバリ島の人たちと出会い、「ああ、こんなふうに人は生きていけるんだ」と旅の途中、思ったという。エレベータの保守の仕事も定年前に早々に辞め、今は京都の北、比叡山の麓で小さな畑を耕している。時々、とれたての野菜を届けてくれる。
あこがれの作家や画家のゆかりの地を訪ねるのも旅の醍醐味。ロンドン・ブルームズベリーにあるヴァージニア・ウルフの家の前で撮った写真は、もう何年前になるかな。
「開心」とは「うれしい」という中国語。心を開いて、オープンマインドに。そうすればきっと、「うれしい」旅になる。
「旅は道草」は毎月20日に掲載予定です。これまでの記事はこちらからどうぞ。
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