
今回取り上げるドラマ「星から来たあなた」(全21話、SBS、2013~2014)は、“外界人(宇宙人)”の男と地球人の女が愛し合うというSFラブコメディーである。セリフを聞いて思わずハラハラと涙がこぼれるかと思えば、爆笑させられる場面もある。その上、命には限りがあっていつ終わるかもしれないのに、今この瞬間を無為に過ごしている自分に気づかせてくれる。荒唐無稽な設定にもかかわらず、人生、愛、そして異質なものとして排除されるものの痛みについても考えさせられる。なかなか味のあるドラマである。
孤独な外界人
主人公ト・ミンジュン(キム・スヒョン1988~)は、朝鮮王朝時代の1609年にKMT184.05という星からUFOに乗ってやってきた。すぐに帰るつもりだったが、ある事件に巻き込まれて帰れなくなった。ミンジュンはそれ以来約400年もの間、地球で暮らしながら故郷の星から迎えが来るのを待っている。見かけは地球人と同じだが、異なる時空から来たので地球人よりもはるかに長生きだ。この間、移り変わる人間社会を観察しながら一人で淡々と生きてきた。
ミンジュンはこれまで地球人の生と死を何度も目の当たりにし、多くのことを悟った。初めのうちは自分の超能力を使って、困っている人を助けたいと思ったこともある。しかし、それはいつも裏目に出た。相手にとって良かれと思ってやったことが、一層悲惨な目に遭わせてしまったり、かえって恨まれる結果になったのだ。また、ミンジュンにとって大きな痛手だったのは、地球にやってきて最初に出会ったいとおしい少女イファを死なせてしまったことだった。

イファは朝鮮時代の江原地方の両班の娘で、嫁入り直前に夫が死に寡婦となった。婚家側は、家門の名誉となる烈女碑を建てようともくろみ、嫁のイファを自殺に見せかけて殺そうとした。死んだ夫の後を追って自死してこそ烈女として認められるからだ。ミンジュンはイファを助けて二人で逃げたが、追手によって崖っぷちに追いつめられてしまう。そして、追手たちが放った矢がミンジュンを射抜こうとした瞬間、イファがミンジュンをかばって自ら矢を受けて死んでしまったのだ。
イファはミンジュンが外界人であることを知っても、ありのまま受け入れてくれた数少ない人だった。ほとんどの人は、ミンジュンの超能力を見たり、地球の人間とは異なる存在であることを知ると、たちまち彼を差別し、排除した。誰もありのままの彼を受け入れようとはしなかったのだ。ミンジュンはこうした経験を通して、できるだけ地球人と関わるまいとするようになった。また、いずれこの地球を去る時に別れを惜しんだり、惜しまれたりしないためにもそうすべきだと思ったのだ。それでミンジュンは、自分が外界人であることを知る唯一のチャン弁護士以外とは深い縁を作らず生きてきた.

余すところ3か月
そんなある日、待ちに待った迎えのUFOが3か月後に地球に接近する彗星とともにやって来ることを知る。ミンジュンはチャン弁護士(写真)にそのことを告げ、地球を離れるための身辺整理を始めた。だが、ミンジュンには一つだけ気がかりなことがあった。12年前、ミンジュンはイファに良く似た少女が事故に遭うことを予知し、とっさに超能力を発揮して救ったことがあった。あの時の少女がイファとどんなつながりがあるのか、もう一度会って確かめてみたかった。
そう思っていた矢先に、一人の女性がミンジュンの前に現れる。隣りに引っ越してきた女優のチョン・ソンイ(チョン・ジヒョン1981~)だ。見かけは優雅だが、素顔は無鉄砲で大人気ない性格をもつ女性である。ところが、この女性には自分が会いたいと思っていた少女の面影があった。ミンジュンはソンイがあの少女なのか、そして、あの少女はイファの転生なのかを無性に知りたくなってしまう。

一方ソンイは、韓国で自分を知らない人は誰もいないと自負している。それなのにト・ミンジュンは、若者のくせに自分を知らず、関心があるそぶりも見せない。それだけでもショックなのに、なんと自分が籍を置く大学の講師でもある。みかけの若さとは裏腹に幅広い教養と知性を備えていて、チラッとのぞいた彼の書斎にはおびただしい数の蔵書があった。その上、この広い豪華マンションに一人暮らし。この男はいったい何もの?と思わずにいられない。
隣人として出会ったト・ミンジュンとチョン・ソンイは、それぞれの思いを秘めつつ少しずつ交流する。そのうち二人は互いに心を寄せ合うようになるのだが、とりわけミンジュンの心境は複雑だ。地球を離れる直前なのに恋愛などしている場合ではないからだ。“外界人であることを知ればソンイは自から離れていくだろう”と思って打ち明けてもみた。だが、ソンイは意外と平ちゃらだ。それよりも、ソンイはミンジュンが好きなのが「あの少女に似たソンイ」なのか、「ソンイ自身」なのかの方が気になった。そして、ミンジュンが自分を好きなのだと知って一層積極的にアプローチする。ソンイは無邪気に二人の未来を描き、「いつまでも末永く自分の傍にいて欲しい」とミンジュンに頼む。
だが、ミンジュンはもうすぐ故郷の星に帰らなければならない。超能力も衰え、体調も悪くなってきたことを自覚するようになる。このまま地球にいればじきに死ぬであろう。しかし、故郷に帰ればいつ地球に戻って来られるかわからない・・・。愛が深まるにつれて二人はこの事実の前で悩み苦しむ。見ているこちらも切なくなってしまう。結末はいくら考えても想像がつかなかった。多くの視聴者も同じだったのか、視聴率は最終回がもっとも高かった(33.2%:TNmSソウル)。

韓流の新しい波
2014年のSBS演技大賞ではチョン・ソンイを演じたチョン・ジヒョンが大賞を受賞した。その他、百想芸術大賞、コリアドラマ・アウォーズ、大韓民国韓流大賞など、国内外でこのドラマの関係者たちが数々の賞を受賞し、その人気ぶりを誇示した。その勢いは前年のSBS水木ドラマ「相続者」(本欄62)を上回ると言ってもよいだろう。
とくに中国ではチャングム以来の韓流ドラマシンドロームを巻き起こしたといわれている。ドラマは韓国での放送の翌日にインターネット動画サイトで公開され、6億ビューを記録したという。また、この1月末からは衛星放送(安徽)での放映も始まった。中国ではテレビ放送に宇宙人やお化けなどは登場できないという規定があって、許可が下りるまでに時間がかかったそうである(「“별에서 온 그대”중국 전파 탄다」2016.01.28:www.asiae.co.kr)。
ドラマの立役者たち
脚本を書いたパク・ジウン(1976~)は、近年“スター作家”として最も注目されている一人である。芸能番組の構成作家を経て2007年にドラマ作家としてデビューし、次々とヒット作を生み出した(詳しくは本欄36)。つい先日、劇中チョン・ソンイを演じたチョン・ジヒョンの所属プロダクションと、100話分の契約をしたという。その契約金額は100億ウォン(約10億円)とも噂されている(「'별그대' 박지은 작가, 전지현 소속사와 100회 집필계약」連合ニュース2016.1.28)。
このドラマの構想は、芸能番組を担当していた頃に読んだ『朝鮮王朝実録』をヒントにしたそうだ。1609年9月25日(陰暦)の記録によれば、その一月前の8月25日に、杆城、原州、江陵、春川、襄陽などの複数の地域で、円盤のような光る物体が目撃されたという。作家は想像力たくましく、「それがもしUFOだったとしたら?UFOに乗ってきた外界人がそのまま地球で生き続けているとしたら?」と設定してストーリーを考えたのだ(「'별그대' 박지은 작가 "'설희'와 같은 역사 사실..표절 오해"(전문)」머니투데이 스타뉴스2013.12.22)。ちなみに、『朝鮮王朝実録』の原文は漢文だが、今では漢文とハングル訳を併記したものをウェブ上で読むことができる。UFOの目撃談は以下のサイトにある。http://sillok.history.go.kr/id/kob_10109025_003

一方、演出を担当したチャン・テユ(写真)はSBSのプロデューサーだ。「銭の戦争」(2007)、「風の絵師」(2008)、「根の深い木」(2011)などを演出したことで知られる。今回の「星から来たあなた」でも抜群の演出力を発揮している。UFOがやってくる場面やミンジュンが超能力を使う場面などの映像に多くの工夫がこらされていて、見応えたっぷりだ。このドラマで一躍スターPDとなった。ドラマ終了後、SBSを休職して中国でドラマを作っているそうだ。
しかし、やはり何と言ってもこのドラマの一番の立役者は、チョン・ソンイを演じたチョン・ジヒョンだろう。ドラマファンにはあまり馴染みのない俳優である。彼女はアジアの韓流のはしりともいえる映画「猟奇的な彼女」(2001)で主演し、一躍有名になった。映画中心で、ドラマへの出演は14年ぶりだ。チョン・ジヒョンはとにかく演技が上手い。セリフも体の動きものびのびとしていて感心させられる。ト・ミンジュンを演じたキム・スヒョンも申し分なし。あの整いすぎた無表情の顔が“外界人”にぴったりだった。また、サイコパスのイ・ジェギョン役を演じたシン・ソンロク(1982~)も印象的だ。パク・ヘジン(1983~)がソンイを慕う明朗な御曹司役を演じたのもよかった。
ただし、ジェンダーの面では相変わらずステレオタイプ的な描写が多いのが事実。これだけ豊かな想像力があるのなら、もう少しジェンダーについても多様な描き方があってもよいと思うのだが・・・。
写真出典
http://tenasia.hankyung.com/archives/215026
http://qlcanfl.tistory.com/1610
http://news.joins.com/article/14015280
http://huinderella.tistory.com/691
http://news.joins.com/article/16832554
http://www.instiz.net/pt/2503132
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