2010.04.12 Mon
ページをめくれば、紀元70年のローマがあふれだす。
深夜の冷えた石畳、郊外のオリーブ畑の乾いた臭い 。未開の植民地ブリタニア(!)の、じっとりと陰気な空。そして、汚い階段を7階まであがる安マンション、かけたアンフォラに水で薄めたワイン。リアルで、エキゾチックで、ミステリファンにお馴染みのハードボイルドな世界。
だけど、そこに登場する密偵の「おれ」・ファルコは、ぜんぜんタフガイになりきれない、ちょっと珍しいタイプの主人公だ。
女系大家族で育ったもんだから、「男」を振りかざしたとたんに、おかんと女兄弟にやりこめられて痛い目見るし、ちいさいころ家をでていった山師っぽいおとんにもふりまわされっぱなし。事件を解決してるんだか、家族の世話を焼いてるんだか、わかったもんじゃない。なにより、家父長制社会・階級社会の源流たるローマで彼が恋してしまったのは、親の決めた結婚を破談にするほど「自立した」、バツイチの元老院議員令嬢だった……。
強い女なんて嫌いだったはずなのに!!!
そんな悲鳴をあげながらも、ああ、皇帝の密偵をしてるくせに「共和主義者」を自称してるような、リベラリストの「おれ」は、彼女の正論には逆らえない。それでますます面倒くさい事件に巻き込まれていくんだとしても……。
庶民でごった返す下町から、香料と権謀のにおいがする宮廷まで、何食わぬ顔をして出入りするファルコは、事件のなぞだけではなく、わたしたちに「帝国」の輪郭をも見せてくれる。フェミニストになろうとしてなりきれない、リアルな迷いもおもしろい。社会からはみ出して生きていくことの、大変さも、誇りも、いつの世も変わらないんだね。ちょっと元気になれる、歴史ミステリー。あと、出てくる女性がとにかくみんな魅力的です。(ちびがえる)
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