ウルグアイは、人口およそ350万人。ブラジルの南、アルゼンチンとのあいだに位置する、南米大陸では2番目に面積が小さい国だ。

この国の前大統領ホセ・ムヒカ氏は、その質素な暮らしぶりから「世界一貧しい大統領」とよばれ、今も「ペペ・ムヒカ」という愛称で人々に愛されている。2012年の「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」でのスピーチで一躍有名となり、ノーベル平和賞の候補にノミネートされたり、アメリカとキューバの国交回復の立役者としても知られる人だ。

本作には驚くべきことに、彼が、そのまま「本人役」で「フル出場」する。本人役なのだから当然といえば当然だが、演技にも彼のおおらかな人柄がにじみ出ていてほほえましい。大統領だった人がここに住んでるの?と思わず笑みがこぼれる自宅や、チャーミングな愛車や愛犬まで登場する。

肝心のストーリーは、巧妙に事実が混ざりこんでくるため、ドキュメンタリーかと見紛うようなフィクションだ。その奇想天外さに加え、全編にあふれるジョークとユーモア、細部にこめられた皮肉が、痛快で新鮮な驚きをくれる。邦題も字幕もイケてる、笑いっぱなしの75分になること請け合いの作品だ。

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2013年に、南米ウルグアイで大麻が合法化された。ホセ・ムヒカ大統領(本人友情出演!)は「麻薬密輸業者から市場をとりあげるための壮大な社会実験だ」と語り、今後は「軍が大麻の栽培と販売を管理し、薬局で、1グラム1ドルで販売する」と発表した。

母親のタルマと経営していた薬局が傾きはじめていたアルフレド(デニー・ブレックナー、原案・監督・脚本・主演を担当)は、これに便乗しようと、さっそく「大麻入りブラウニー」を試験販売と称して売りはじめ、巷の話題となった。ところが、材料の大麻を密輸業者から入手していたことがバレて、即座に逮捕され独房へ入れられてしまう。

一方、国の大麻の栽培がいっこうにすすまず、人々の不満は一気にふくらんでいった。それに危機感を覚えた大統領は、国外の供給ルートを探るべく、アルフレドに、独房からの釈放と引き換えにある「極秘指令」をだした。その内容は、「母親とふたりでアメリカにわたり、大麻50トンを入手せよ」というものだった!――期限は25日後、大統領自身がアメリカのオバマ大統領と会談をする日まで。果たしてアルフレドと母タルマは、無事にミッションを達成できるのだろうか――?

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この物語の、どこまでが事実にもとづくドキュメンタリーで、どこからがフィクションかは見てのお楽しみだが、日本では法律によって厳しく規制されている大麻を、ウルグアイはじっさい2013年に、世界で初めて合法化した。そのとき、ウルグアイでは国を二分するほどの議論となったのだという。

本作では、自ら先頭に立って実現した「大麻の合法化」の頓挫を皮肉たっぷりに笑いとばす映画に、前大統領自らが出演している。そんな、一国のリーダーの懐の深さを見せられると、自由な表現や議論ができる場を保証する社会のしなやかな強さ、コミュニケーションによる風通しの良さが生みだす豊かな関係っていいな、と改めて思わずにはいられない。自分に批判的な声をことごとく封じ込めようとする、どこかの国のエライ人たちとは大違いだ。

と同時に、大麻をめぐる規制の在りようだけをくらべてみても、法律や制度によって行われる線引きは国や地域によってずいぶんと異なるし、また変わりうる/変えていくべきものなのだと分かる。例えばここ最近の、あいつぐ性犯罪の不起訴や無罪判決を見ても明らかなように、日本もまた、悪辣な、倫理に反するものが、法律で裁かれない社会である。おかしいことは、どこにでもあるのだ。

さいごに、もう一つだけ事実を紹介すると、本作で登場する母親役のタルマ・フリードレルと、アルフレドを演じたデニー・ブレックナーは実の親子なのだそうだ。このふたりの、肝が座ったコンビネーションもすばらしい。そうそう、極秘のミッションだから、もちろん「お約束」の色恋沙汰も登場する。ふたり、それぞれのラブアフェアもどうぞお楽しみに!公式ウエブサイトはこちら。(中村奈津子)


新宿・K's cinemaにて上映中。ほか8/17~名古屋シネマテーク、8/24~京都・出町座、神戸・元町映画館でも公開!

監督:デニー・ブレックナー/アルフォンソ・ゲレロ・マルコス・ヘッチ
出演:デニー・ブレックナー/タルマ・フリードレル/グスタポ・オルモス/イグナシオ・ロケ/ペペ・ムヒカ(友情出演)
2017年/ウルグアイ=米国/75分
配給:Action Inc. + Smoke

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