2010.06.04 Fri
コマドリさんは小さなまちの40歳の会社員である。親元に住み、衣装ケースに夜店で買ったうずらを飼っている。会社ではおじさんたちに「いいお嫁さんになれるよ」と言われつづけ、料理も着付けもなかなかの腕前であるが、結局この年になっても性交どころか男性とつき合ったこともない。コマドリさんはロマンティックな結婚に憧れている。
中学生のときにはヤンキーのアスカちゃんの恋愛話にドキドキし、今もたいして美人でもないのに、男性受けする新入社員のシゲコちゃんの存在が気にさわる。30歳を過ぎてお見合いをしたこともあるが、相手との性交が想像できず、見合い相手が「コマドリさんに対し〈やりたい〉ではなく〈やってもいい〉程度のセクシーさしか感じていない」ことでは、ロマンティックにはならないと思う。
わたしは小さなまちに住んでいる40歳の会社員ではないけれど、コマドリさんの気持ちが結構わかる。フェミニズムに出会っていなければ、わたしってこんな感じだったかも、とも思うのである。物語の終わりで小さなまちの夜の街に女友だちに会いに行くコマドリさん。ひょっとしてこれからフェミニズムに出会うかも。
本書は、タイトル『肝、焼ける』(31歳の会社員の女性が遠距離恋愛の相手を追いかける)の他、上記の『コマドリさんのこと』など全5編が収められた朝倉かすみの小説集。(lita)
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