新訳版として装いも新たに刊行した『DVにさらされる子どもたち』は、2004年に旧版が出版されています。この20年余りの間、DV被害者の方々をはじめとして、支援グループ、裁判官、弁護士、児童保護機関の関係者の方々に必要不可欠の書籍として支持されてきました。決して華やかな動きではないものの、着実に版を重ねてきました。
今回、社会情勢を踏まえて翻訳の表現を見直しましたが、旧版刊行より長い時間を経ているにもかかわらず、著者たちが主張されている以下の点については、まだまだ社会一般の認識不足があることを否めません。
それは、「DVを生き延びた被害女性に対して、見下した態度や忍耐力の欠如は禁物であることと敬意をもって接することの重要性を主張している」こと、「子どもは加害者の暴力行為だけでなく、加害者がいることによって作られる家族関係の力学に、情緒面・発達面で大きな影響を受ける」ということ、「被害者である母親を家族の安全と安心の実現を図るチームの一員として位置づけることは、結果としてDVにさらされた子どもへの支援につながる」と主張している、といった点です。
これらの主張は、たいへん重要なポイントであり、本書の最大の特徴であるとも言えます。なぜなら、被害女性を無力でみじめな存在であるという捉え方から解放し、非常に勇気づけるものだからです。また本書は、DVが存在した家族の共同親権や面会交流の問題もつぶさに拾い上げて解説をしております。
DV被害者やその子どもたちに対する社会通念を覆す1冊です。
◆書誌データ
書名 :DVにさらされる子どもたち 新訳版ー親としての加害者が家族機能に及ぼす影響
著者名:ランディ・バンクロフト, ジェイ・G・シルバーマン
翻訳者名:幾島 幸子
頁数 :310頁
出版社:金剛出版
刊行日:2022/1/13
定価 :3080円(税込)