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「遂行的矛盾」という批判のあり方 日合あかね
2011.12.09 Fri
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください. 先日、佐高信の『原発文化人50人斬り』という本を目にする機会があった。あれこれの芸能人が原発に関してどんな発言をしていたかということや、原発推進したのは誰かということなどを書いた、原発に対して徹底的に批判的なスタンスをとる本で、野次馬根性も手伝って、かなり面白い内容であった。
が、ここまで徹底していると、著者はかなり生き辛いのではないだろうか、などと思ってしまう。そう思うのは、一時期、「そんなに原発を批判するなら、電気を使うな」という批判をよく目にしたからかもしれない。
「脱原発をめぐる種々の発言」が行われる上記のような言論状況のなかで、矢内さんの書いておられる「自分に何が出来るのか」という問いや「言葉」は、わたしにひとつのフレーズを思い起こさせた。
まずは、2001年9月11日の出来事直後のアメリカの言論状況をふり返ってみたい。
『女性・戦争・人権』の第5号に掲載されたジュディス・バトラーの「説明と免責――私たちは何を聞き取ることができるのか――」という文章によると、そこで支配的だったのは、「<9.11>の前史を語ることは、テロ行為の免責を意味する」という、ひとつの規範である。アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.
テロの根絶を要求するナショナリストたちは、なぜアメリカがテロの攻撃に見舞われたのかを問い、その説明を求めることは、テロ行為そのものに対するテロリストたちの責任は問わないということに他ならないと考えるので、自分たちが被った暴力の経験から物語を語り始める。出来事の責任を唯一合衆国に求める左翼たちは、その出来事の背景を問い、説明を求めることによって、テロ行為そのものに対する責任からテロリストたちを解放する。
一方は、出来事の背景を問うことなく自分たちが被害者であることを主張し、他方は、出来事の背景を問うことによって自分たちが加害者であることを主張する。しかしナショナリストも左翼も共通して、「<9.11>の前史を語ることは、テロ行為の免責を意味する」という規範を遵守していることはたしかである。
このような状況にあって、ジュディス・バトラーは、あの出来事の背景にはそれを形作った歴史があり、こうした歴史的説明によってあの出来事は理解可能になること、しかしそのような歴史的説明を行うからといって、そのことがあの出来事を正当化するわけではないことを主張している。歴史的説明を行うことがあの出来事を正当化するわけではないということは、歴史的説明を行うこととあの出来事を実際に引き起こした人物たちの責任を問うこととは独立しているということであって、歴史的説明が行われても、そのことがこれらの人物たちから責任を免除することを意味するわけではないということである。つまりバトラーは、説明と免責がそれぞれ別々の事柄であることを主張しながら、これらをひとつながりのこととする支配的な規範に逆らってみせているのであり、主張すると同時に、規範の妥当性に揺さぶりをかけているのである。
では、2011年3月11日の出来事以後の「脱原発」をめぐる言論状況はどのようなものであるか。その状況は、さまざまに描写することが可能だろう。
だがそのなかで、ひとつ確実に言えることがあるように思う。
それは、「脱原発」を口にすると、「これまで認めてきたくせに」とか「快適な暮らしを享受してきたし、いまなお享受しているくせに」といった強力な批判にさらされるということだ。「これまで認めてきたくせに」。「快適な暮らしを享受してきたし、いまなお享受しているくせに」。そのとおり。ごく一部を除いて、多くの人たちは、これまで誠実そうな人たちによって語られる安全神話を信じ、放射性廃棄物のことなど知らないふりをして、あるいは本当に知らないまま、原発の恩恵にあずかってきた。それを手のひらを返したように「脱原発」を唱えるとはどういうことか、わが身をふりかえってみよ、だれも無実ではないはずだ、というわけだ。たしかにその通りだろう。にもかかわらず、こうした状況においてもなお、「脱原発」を主張することはいかにして可能になるのか。この言論状況において、言説を拘束するいかなる規範が支配的に機能しているのだろうか。
先に言及したわたしが想起したフレーズは、次のようなバトラーの言葉である。
「規範の欠陥は遂行的矛盾において明らかとなる」。アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.
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