2010.09.07 Tue
家族とは何か、といった問いは、その形態の歴史変遷・文化的多様性を中心に、家族社会学や歴史社会学の分野において、長きにわたって論じられてきました。しかしながら、本書ではむしろ、わたしたちの「家族」経験とはどのようなものなのか、そしてそうした経験から、「自由」を問い返してみると、どんな社会を展望することになるのだろうか、という問いに、文学・哲学・法学・政治学・社会学といった多様な視点から、応えようとしています。
家族とは、女性にとって抑圧の場であったり、子どもや高齢者にとっては悲劇的な暴力の場となったりもします。そうした現実を踏まえ、フェミニストの議論は、制度的な家族のもつ、女性に社会的従属を強いるようなイデオロギーと闘ってきました。フェミニストのこれまでの議論を踏まえつつも、なお、本書では、家族という機能のもつ、社会全体に対する可能性を積極的に取り上げることに力点がおかれています。
家族は、単にわたしたち一人ひとりが多様な家族を生きている、というだけでなく、家族内における構成員の立場の違いや、どのような視点から眺めるかによって、まったく異なる意味合いを帯びるような、いまだ解かれぬ謎多き社会的存在です。
各章には、論者それぞれの「家族」に対する思いと、これまでの各論者の研究の蓄積が込められています。それゆえ、論者のあいだで、鋭い対立を本書の中に見いだすこともできるかもしれません。読者の方々それぞれが、自らの「家族」を振り返りつつ、あるいは、未来の「家族像」を描きつつ、各章毎に異なる論調を味わっていただければ幸いです。
また、本シリーズには、「はじめに」に代えて、シリーズ各巻編者同士の対談が収められています。本巻では、7月末発売予定の第八巻の責任編者、加藤秀一さんとの対談で、本巻の狙いや、岡野自身の家族論にも触れています。本書全体を理解するためにも、ぜひとも、まずは対談を読んでいただくことをお勧めします。
なお、本シリーズ第八巻『生存・生き方・生命』での、加藤さんとの対談では、第七巻以上に、フェミニズム理論について、より深い議論を展開することができました。そちらも合わせてお読みいただければ、なおいっそう、〈自由と家族〉に込められた趣旨がお分かりいただけると思います。(岡野八代)
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