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夏の終わりに、二つの冒険    タキコ

2010.10.15 Fri

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田丸理砂さんのエッセイを読んで、時空を、時間を、時代を超えて繰り広げられる物語と夏の香りが、ぱあっと広がりました。もう夏休みも終わる…という時期にこれを書いているのだけれど、掲載される頃にはだいぶと涼しくなっているのでしょうね。いずれにせよ、過ぎ行く夏というのはちょっぴりセンチメンタルで、草の蒸す香り、線香花火のにおい、そういったものが妙にいとおしく感じられ、日のしずむのが早くなってゆくのを肌で感じて、急に心臓をぎゅっとつかまれたようになって立ちすくむ。そんな感じがあります。

私はあまり本を読まないけれど、心づよいおんなともだちが何人かいて、素敵な本を見繕って貸してくれます。彼女達に敬意を表して、また本を読む、という特別な時間を演出したいがために、いつ、どんなときに、どんな本を、どんな体勢で読むか…そんなことに、心を砕きます。夏なんかは、特に。

畳に座り壁にもたれて、じっとりと首筋に汗をかきながら、開け放った吐き出し窓から入る風とひかりだけで読んでみたのは、湯本香樹実『夏の庭—The friends—』。これは何度か読んでいるけど、読む度にきゅーっとなって、じーんときて、とにかく、夏。中学受験の参考書にもよく掲載されていたので、中学受験、夏期講習…そんな思い出まで一緒になってせり上がってくる。

「死」に好奇心を持った三人の小学生が、町外れの独居老人にターゲットを決めて観察し始める。そこは小学生のすること、すぐにバレて、老人との交流が深まってゆく…というお話。そんな「死」の冒険をするのは男の子で、交流するのはおじいちゃんで、女の子なんて飾り程度にしか出てこない話なんですが、いいんです、それはそれで。だって、これは憧れの男の子的冒険の話。女の子がしたい「男の子の冒険」が詰まっている究極のファンタジーだと思うから。

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そういう意味では、小学生男子てんこもりの、梅佳代『男子』という写真集も、究極のファンタジーなんだと思う、少なくとも私にとっては。「男子は/ばかで/無敵で/かっこいいです(梅佳代)」!そのとおり!あのころ、男の子になりたかったわたし。でもなれなかったわたし。どうしようもなく女の子な自分に打ちのめされて、ひたすらまぶしかった「男子」!それがいっぱいに詰まっていて、こちらも、ちょっとヒネクレた夏の冒険。

煩い日差しをよそに、クーラーの効いた涼しい室内で優雅に怠惰に読んだのは、田辺聖子『うすうす知ってた』。うつくしい大阪弁(関西弁、ではきっと、いけません)でつむがれる短編集。これを貸してもらうとき、友人には「オトナの恋愛小説」をリクエストしたのですが、なかなかどうして、濃密なオトナの時間に、ノックアウトされてしまいました。

妹の婚約者に、義妹の見合い相手に、旧友の夫に、惹かれるおんな達。といって、どろどろしたものではない。さらさらとしているだけに、おんな達の自意識とその心模様に身悶えてしまう。どれだけ筆を尽くしてもこの魅力は書きあらわせない自信があります。さらっとした大阪弁のやりとりがおりなす濃密な物語たちにすっかりあてられて、一日一編をよむのがやっと。思い返すと、冬の描写なんかがけっこうあるのですが、この季節に呼んだせいか、うっすらと玉の汗をうかべた、大人の女性のしっとりとした肌が連想されて、なんだか夏のイメージです。オトナのオンナを楽しむ、ドキドキ、夏の冒険でした。

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あとがきで著者は、「『かくあらまほしい』という物を書きたいという気持ちが、心の底にある」と書いていますが、ちょっとずつずれて結局うまくいくような、いけずでも底にかならず思いやりがあるような。まさに「かくあらまほしい」関係、に、ほうっと色めいたため息が出てしまいます。

「男子」も「オトナのオンナ」も、私にとって手が届きそうで届かない。求めるけれど、永遠の憧れであってほしい気もする。かげろうのむこうの、夏の冒険の物語。

次回「女子の特権!?地道に続く「成長」の楽しみ」へバトンタッチ・・・・つぎの記事はこちらから








カテゴリー:リレー・エッセイ