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発達障害児は可愛くない? 秋月ななみ
2013.06.16 Sun
発達障害かもしれない子どもと育つということ。8
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください. 心に引っかかっている本がある。『娘が発達障害と診断されて… 母親やめてもいいですか』(メインのタイトルの方が、「母親やめてもいいですか」である)。ネットで見ても、この本には賛否両論あり、否定的な人の意見は相当に厳しい。普通であったら自分自身の感情に蓋をしてしまうようなところまで作者は覗き込み、さらに世間的には批判される可能性もあることも赤裸々に書いてある。私自身は好感を持って面白く読んだので、皆の過剰なまでの罵倒が意外だった。何らかの琴線に触れたということなのだろう。
とくに印象に残ったのが、第5章「普通の子はかわいいですか」である。療育の場でのお弁当タイムで、健常児の子育てが話題になり「(発達障害児の)りょうのときと違ってバッチリ目が合ってさ、ニコッと笑いかけてくるからなんかテレちゃうのよ」というお母さんにむかって療育の先生が、「良かったねぇ、思い切って2人目産んで。やっぱり普通の子は親を癒してくれるもんねぇ」と対応する。それに対してお母さんたちがあとで、「さっきの一言、ちょっとどうかと思うな…」、「だよね~。私も思った」と批判の声があがり、「わが子だもん。無条件で可愛いよねぇ」という発言が出るというシーンがある。
この母親たちの輪のなかで作者は、「私も普通の子の方が、きっと可愛いと思うもの――」。「なんだろうこのうしろめたい気分は――」と疎外感を感じる。そしてお泊りで子どもがいなくなった後に、「正直ホッとする。たから(娘)とずっと一緒にいると息がつまるから」。さらに「こんなこと思うなんてもしかして私――、たからが可愛くない…?」、「わが子を可愛いと思えないひどい母親――」と自分を責めるのである。
療育という場で先生がする発言としては不適切だとは思うものの、正直に言えば、「普通の子」のほうが発達障害児より可愛い場面が多いのは、体験からいえば事実である。綺麗事を言っても仕方がない。療育の先生もよくわかっているからこその「本音」だったのだろう。
「普通の子」とのんびり遊んでいると、まず目が合う。目が合うだけで、人は心が通じたように感じるのだなと、気づかされる。そしてお互いに反応しあう。こちらが笑いかければ、子どもからも反応が返ってくる。「子どもって、なんて可愛いんだろう!」。そう思わされるシーンはとても多い。
それに対して発達障害児は、目が合わない。マイペース。トラブルも起こる。何よりも親に対しても愛着をもてない「障害」であるのだから、絆も作りにくい。さらに子どもの将来を真面目に考えれば考えるほど、鬱々としてきてしまう。発達障害児の被虐待率が高いというのも、理由がないわけではない。
子育てというものは、一方的に親が子どもに与える側面がある。それでも報われる瞬間は、子どもの笑顔であったり、気持ちの交流であったり、「ママ好き」という言葉であったりする。それが少ない子育てが重い気持ちも、すごくよくわかる。
ただ、発達障害児ものんびりとではあるが、発達していく。上で書いた子どもの可愛さが、生物として持つ素朴な存在としての可愛さであるとしたら、発達の途中では、子どもの「個性」としての可愛さのようなものが現れてくる。発達障害の子どもは「普通」じゃない、つまり「ユニーク」なので、その個性は「健常児」よりも愛すべき場合もあるだろう。
作者自身も後に「障害というフィルターを通して見ていた頃は、気付かなかった、たからの可愛らしさ」を発見する。作者の見方が変わったことも、もちろんあるだろう。ただそれだけではなく、子どもがある程度大きくなって、「その子らしい一面」がみえてきたこともあるのではないかと思う。
作者を追い詰めたものは、「子どもは無条件で可愛いはず」という母性神話である。発達障害の育児本には、はっきりと「子どもを可愛く感じないかも知れません」と書いて欲しい。それは「普通」のことなのだ。「健常児」でも子どもが可愛くないという悩みは、存在している。手のかかる「障害児」に対して、さらにその感情を持つべきでないと自分を責めることが、親のためにも子のためにもならないのは、この本を見ても明らかである。
そして明るい見通しも、同時に必ず書いて欲しい。「できない」ことばかりがクローズアップされがちだが、発達障害児は、良くも悪くも育て方次第の側面も勿論ある。「発達障害は生まれつきの脳の構造の違いからくる」ことは事実だとしても、子ども自身も成長するのである。「生まれつき」説が、母親の育て方を批判しないために強調されているのはよいことだとしても、「生まれつき」だから「変わらないのだから仕方ない」という諦めに結びついてしまうとしたら、それもまた不幸なことだと思うのだ。
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シリーズ「発達障害かもしれない子どもと育つということ。」は、毎月15日にアップ予定です。
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