エッセイ

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会いたい絵に会いにゆく(旅は道草・26) やぎ みね

2012.03.20 Tue

 ダンテ・ガブリエル・ロセッティ(1828~1882)、19世紀、イギリス・ヴィクトリア朝時代に活躍したラファエル前派の詩人で、画家。

テート・ギャラリー

  女からみれば、ちょっと許しがたい男なのだが、「視よ、我は主のはした女なり」「至福のベアトリーチェ」とりわけ「プロセルピナ」は、そのモデルとなった女性たちとの関係を映し出し、どれもが神秘的で魅惑的な絵なのだ。

 その絵に会いたいと、ロンドン「テート・ギャラリー」に会いにゆく。

プロセルピナ

 ラファエル前派の部屋に入ると、絵の中の女たちは、挑むように、そしてなまめかしさを漂わせつつ見るものに迫ってきた。「ああ、ファム・ファタールだ」と一瞬、思った。

 スティーヴン・アダムズ著『ラファエル前派の画家たち』(高宮利行訳 リプロポート)によると、1848年、ロセッティら7人の画家たちは、ルネサンス後の美術界を脱して、「自由な自然に戻ろう」と芸術的秘密結社を結成。のちの象徴主義美術の先駆となった。

 「オフィリア」のモデルとなった妻、エリザベス・シダルは、夫・ロセッティと、のちにウィリアム・モリスの妻となったジェーン・バーデンとの関係に悩み、結婚2年後、自殺同然の死を遂げる。ロセッティもまた、ウィリアム・モリスとジェーンとの三者の葛藤に苦しみ、薬物に溺れて54歳で世を去る。

ロセッティの胸像

 テムズ河畔のチェイニーウォークにロセッティの胸像があった。チェルシーには彼の古い住居も残っていた。一人でじっと胸像を眺めていると、どこからか、おばあさんがやってきて何かいいたそうに近づいてきた。けれど遅れて歩いてきた連れを見ると、フンとした顔で踵を返すや、さっさと向こうへ行ってしまった。一人旅の女の「無聊」を慰めてやろうと思っていたのに、ちょっとあてが外れて、つむじを曲げたのかもしれないな。

 もう一人、同時代の象徴派の先駆者、フランスの画家・ギュスターヴ・モロー(1826~1898)に会いにパリにゆく。

 モンマルトル地区・夜の女もたむろするというクリシー大通りにほど近く、「ギュスターヴ・モロー美術館」はあった。

 ここを訪ねるまでが大変。「地球の歩き方」で調べた地図のページが、そこだけが破れて、なくなっていたのだ。

  いつも旅に出る前、行きたいところを、きっちり地図で調べて「この角を曲がれば、きっとそこにあるはず」というのが私流。行き当たりばったり、出たとこ勝負で着いたところを楽しむのが連れの作風。

 「どうしても、あの美術館に行きたいのよ」「べつに見つからなくてもいいじゃないか」と、道なかで口喧嘩をしていたら、フランスの若い男が振り返りながらクスッと笑って通りすぎていった。

  ようやく見つけた美術館は19世紀の古びた邸宅。この家で彼は終生、独身を通し、絵を描き続けたという。

 部屋のまんなかの螺旋階段を昇ると、「サロメ」など神秘的なモローの作品が壁にぎっしり。描きかけのキャンバスも無造作に目の前においてあった。

メトロポリタン美術館

 ちょっと時代が下って19~20世紀のアメリカの女性画家、ジョージア・オキーフ(1887~1986)。

 ニューヨーク、セントラルパーク沿いの「メトロポリタン美術館」に彼女の絵を訪ねる。広い美術館を走り回って、ようやく「花」を主題にした作品を3点見つけた。

  なんと彼女は99歳まで生きた。晩年、日本に菊を見に来たこともあったとか。老いてからのキリリとした顔。「男性の横暴が大嫌い」と小気味のいいセリフは、さすがフェミニストの画家だ。頼もしい。

 ヨーロッパもアメリカも、どこの美術館でも、子どもたちが思い思いに名画の前に座り、先生から絵の説明を聞いている風景に、よく出会った。

 きっとあの子たち、大きくなったら、会いたい絵に会いにゆくんだろうな。世界中の美術館を旅するんだろうな。子どもたちの、のちの姿を思い描いて、なんか、とってもうれしくなった。

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カテゴリー:旅は道草

タグ: / アート / やぎみね

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