声明 

                                                               AV出演被害防止・救済法の実現を求める会

 5月13日に 与野党実務担当者会議においてAV出演被害防止・救済法法案の素案がまとまったとの報道に接しました。

私たちは、与野党実務者が取りまとめた法案を、被害者の尊厳や人権を守り、被害の予防や救済を実現するために必要な法律であると評価し、一日も早い全会一致での成立を望みます。

 AVをめぐっては、出演による甚大な被害が発生しています。密室で行われる制作AVプロセスにおいて出演者が脆弱な立場に置かれ、意に反する性行為をさせられる危険性が高いうえ、自らが被写体となった性行為の映像がインターネット等を通じて販売・配信・拡散されて不特定多数の者に視聴され、半永久的に残ることに対する精神的苦痛が極めて深刻です。ところが、AV を直接の対象とした監督官庁や法規制は存在せず、被害を受けたことの立証責任を被害者が負うため、警察や裁判所による救済も十分に機能せず、被害者はPTSD罹患・自死など深刻な状況に苦しんできました。

性行為動画の拡散を止めるほぼ唯一の確実な救済手段であった18歳、19歳の未成年者取消権が、成人年齢引き下げによって奪われることになり、新たな被害の増大が懸念される中、私たちは、未成年者取消権と同等の被害者保護の存続を求めてきました。

全年齢を対象とする法案検討が始まった後は、支援団体等6団体が5 月 9 日に提出した要望書の実現を中心に、法案の課題解決を粘り強く求め、国会議員と対話を重ねてきました。

 私たちの働きかけの結果は真剣に受け止められ、格段の前進があったことを評価することができます。法案は、AVの被害がいかに甚大かを十分に踏まえ、通常の契約法理を越えて、被害者に寄り添った被害救済を規定しています。

「出演者に対して性行為を強制してはならない」(3条)ことを前提に、契約締結段階で事業者に詳細な説明義務・契約書交付義務を課し(4~6条)、撮影は契約書・説明文書の提供から1か月経過後と定め、出演契約に定めた行為でも全部又は一部を拒絶できるとしています(7条)。撮影終了後、出演者に対し、撮影された映像を確認する機会を与えなければならないとされ(8条)、撮影終了後公表までの間に4か月を空けなければないとし(9条)、幾重にも出演者に対する保護を定めています。

事業者の義務に反する場合、出演者は無効、解除・取消が可能であり(10~12条)、さらに重要なことは、出演者は、公表後1年間(但し、施行後2年間は2年間)はいつでも無条件で何らの違約金も課されずに解除することができ(13条)、その結果、事業者は回収を含めた原状回復義務を負い(14条)、出演者は公表の差し止め請求ができ(15条)、さらに拡散防止に関する規定も導入されています(16条)。さらに実効性確保のため、規定に違反した事業者に対する罰則規定が定められ重い法人処罰も規定されています(20~22条)。

こうした法案の規定は、被害者に対し、人権と尊厳の回復を実現できる強力な法的手段を付与するものであり、被害防止と被害救済にとって画期的なものと言えます。

とはいえ、これら規定が適切に運用され実効的な救済が図られるかは早期に検証され不断に見直されるべきです。その意味で2年以内に見直すとの規定を設けたことも評価できます(経過措置第4条)

 本法案をめぐっては、性交及び性交類似行為他性行為と称される行為が全て合意によって合法とされてしまう懸念が指摘されました。

 与野党はこの懸念に応え、①「性行為を行う人の姿態」の表現は「性行為に係る人の姿態」と改め(2条2項、3項、4条3項4号、7条2項、3項、4項)、②第1条に「性行為の強制の禁止並びに他の法令による契約の無効および性行為その他の行為の禁止または制限をいささかも変更するものではないとのこの法律の実施及び解釈の基本原則」が示され、第3条に「売春防止法その他の法令において禁止され又は制限されている性行為その他の行為を行うことができることとなるものではない」と規定されています。

本法の罰則規定や、関連する刑事法規定を厳格に運用することにより、上記懸念を払しょくする努力を進める必要があります。

法制審議会では、刑法性犯罪規定の改正、性的姿態の撮影罪の導入に関する議論が進んでいます。出演者が意に反する性的行為および撮影の被害にあった場合に、加害者を確実に処罰する規定を実現することも重要な課題です。

以上見てきた通り、画期的な意義を有するこの法案を葬り去ることにより、再び被害救済が否定される状態を生むことは許されないと私たちは考えます。法律の制定が遅れれば遅れるほど新たな被害者が生まれる現実に私たちは責任を負うべきです。

この法案について現在議論されている課題は、法制定後2年の見直しにむかってさらに議論を重ね、より良い改正をはかっていくこと、この法律の制定を第一段階として、速やかにAV等における性的搾取や人身売買の根絶のために取り組んでいくことを、この問題に心を寄せる全ての人に呼びかけます。

                            2022年5月15日

AV出演被害防止・救済法の実現を求める会
伊藤和子 内田絵梨 岡恵 大谷恭子 納田さおり 金尻カズナ 北仲千里 後藤弘子 近藤恵子 周藤由美子 寺町東子 橘ジュン 皆川満寿美 山崎菊乃 山崎友記子(アイウエオ順)

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