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卵に振り回される私たち 『にこたま』 渡辺ペコ

2011.10.09 Sun

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あっちゃんとコーヘーは同棲生活5年。ともに29歳。あっちゃんは新聞記者だったのだが、今は、高校の同級生が経営するお弁当屋で働き、コーヘーは弁理士事務所で働いている。「ケッコンするなら まぁ コーヘーだよなぁ」とは思うが、「今のままで不都合ない」ので予定はなし。

平穏な生活を送る二人だったが、コーヘーと上司の女性(高野さん)の間に子どもが出来てしまう。「一人で産んで責任持って育てる」という高野さんの言葉に、コーヘーは何も考えられないまま、あっちゃんに打ち明けて……。

と書くと、なんだかドロドロした男女の物語だと思われるかもしれないが、そうではない。淡々としたストーリー展開に、コミカルな味付け。あっちゃん、コーヘー、高野さんと繋がる人々のキャラクターも、とてもいい。

けれど、この作品の一番の魅力的は、棘のように所々に打ち込まれるピリリとしたあっちゃんの言葉だ。

あっちゃんは、高野さんが「一人で産んで育てる」と言ったことにショックを受ける。「万が一 同じような状況になっても 今の あたしには物理的に無理」、「収入が低いってのは 人生の選択肢が減るということなんだ」。

あっちゃんがこんな風に考え傷ついていることに、誰も気づかないだろう。恋人の浮気による痛みは女友達と共有できる。けれど、この痛みを口にするのは相当ツラい。「収入低いけど楽しい」という人生の選択は、「一人で産んで育てる」という選択肢と両立しない。新聞記者を続けていれば出来たかも……という思いは、あっちゃんの選択に翳りを落とす。

痛みを抱えたあっちゃんに、さらに痛みが降りかかる。卵巣腫瘍で、あっちゃんは卵管と卵巣の大きな部分を摘出することになる。そう、作品タイトルの『にこたま』は、あっちゃんの卵であり、高野さんの妊娠であり、ストレスで腫れあがったコーヘーの睾丸のことなのだ。

29歳。自分でいろんな道を選びとっているのに、私たちは卵に振り回される。時にカラダは厄介な存在となり、理不尽に私たちの前に立ちはだかる。

手術するあっちゃんは、コーヘーに言う。「退院したら、おいしい白子が食べたい」。「そう 卵巣を取ったわたしは 精巣を じゅうじゅう焼いて食べるんだ」。

あっちゃんはしたたかだ。厄介なカラダを、あっちゃんのやり方でしっかり愛おしみ、前に進んでいく。 そんなあっちゃんが、これからどんな選択をしていくのか、応援していきたい。(horry)








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