入院したのは手術前日の午後。当時(2021年12月)のマニラは、コロナ禍が続いていたが、
この時は運よく、感染者数が落ち着いていて、病院も静かだった。
とはいえ、入院病棟に入るには、PCR検査が必須。
一度、病棟を出たら、PCR検査を受け直さなければならないので、
夫は5日間の入院期間中、病院を出ることなく、ずっと付き添ってくれた。
これは本当にありがたく、心強かった。彼には感謝してもしきれない。
入院する際は、まず会計に行き、前金を払って、手続きをする。
その場で、個室の病室を予約した。個室の中では一番安いプランだったが、夫と2人で過ごしても十分な広さで、
シャワーとトイレも完備。窓からの眺めも良い快適な部屋だった。
入院食も希望を出すことができたので、ビーガン(完全菜食)かつグルテンフリーをオーダーした。
野菜がふんだんに入った病院食は美味しく、初日の夜ごはんは完食した。
翌朝開始の手術に向けて、夜9時前には就寝したが、ドアを開ける音とまぶしい明りで目が覚めた。
夜10時過ぎに、主治医のバレンシア先生が手術前のチェックに現れたのだ。
先生が去った後は、夜12時に看護師によるバイタルサインチェック。
手術前は4時間おきに測るのがルールらしい。
深夜2時に、手術に参加する形成外科医のアベサミス先生が現れ、早朝4時にまたバイタルサインチェック。
慌ただしい夜が明け、朝8時ごろ、手術室のスタッフが病室に迎えに来た。
不安そうな顔をした夫を背に、病室を出て、手術室のあるフロアへ向かった。
そのフロアで、手術着に着替え、手術の待機室のベッドの上で、麻酔科の先生の説明を受ける。
「手術の間は麻酔が効いて、痛みは感じませんから、安心してください」
私が日本人だと分かっていて、ゆっくりと優しく、話してくれた。
待機室を出て、手術室にベッドに載せられたまま、運ばれる。
いよいよか、と不安になった瞬間、通路で笑顔で立っている主治医のバレンシア先生が見えた。
先生は私の手を力強く握ってくれた。「大丈夫だよ」というメッセージが、手を通じて伝わってきた。
この時、「この人に一生ついていこう」と思った。本気で。
先生のおかげで、手術は大丈夫、と安心して、手術室に入ることができた。
部屋にはバレンシア先生、乳腺外科医の先生と、麻酔科の先生たちなど6人くらいいただろうか。
私の手術に、こんなにたくさんの人が関わるのか、とありがたく感じた。
手術室の天井はライトがまぶしく、「アメリカの医療ドラマを見てるみたいだなあ」と呑気に思った。
それが手術前の最後の記憶だ。
私の感覚では、それから5秒後に目が覚めた。すでに手術室ではなく、最初にいた待機室に移っていた。
手術は終わっていた。5秒ではなく、実際は5時間近く経っていた。
看護師さんに「気分はどうですか」と聞かれ、「喉が渇きました。」と答えた。
ずっと酸素マスクをつけられていたからだろう。口の中が乾燥していた。
そして「今日は、夜ごはん食べていいですか。」という言葉が出てきた。
食い意地が張っているにもほどがある、と自分でも思う。
全身麻酔から目覚めたばかりで、頭はぼーっとしていたし、
お腹が空いているはずはないのだが、昨日の美味しかった病院食の記憶から、本能的にそんな言葉が出てきたのだろう。
看護師さんは「ええ、もちろん!食べていいわよ。」と満面の笑みで答えてくれた。
日本で医者をしている友人によると、全身麻酔をした日は食事を出さないものらしい。
だが、手術を受けたフィリピンの病院は違った。
自分の病室に戻された数時間後、お願いした通り、夕食が運ばれてきた。
手術で左胸を全摘したため、左腕は固定されて動かせず、
右腕には点滴の管がついていたので、箸も皿も持ちづらかったけど、食べた。
食べられることがとても嬉しかった。私は生きている、と感じられたから。
私が学ぶエネルギーヒーリングでは、食欲は感情と関連が強い。
食欲を司るエネルギーセンター(チャクラ)は、みぞおちにある太陽神経叢チャクラとされる。このチャクラは胃をコントロールすると同時に、不安、心配、イライラといったネガティブな感情のエネルギーが溜まる場所である。
ネガティブな感情が強い時、食欲が落ちたり、胃がキリキリしたり、吐き気がするのはそのためだ。
ネガティブな感情が溜まると、遅かれ早かれ、肉体に悪い影響を及ぼすため、
エネルギー・ヒーリングではエクササイズ、瞑想、呼吸法、ヒーリング手法を使って、
それを取り除くことに注力する。
私が手術が終わった後、すぐに食べようと思えたのは、手術の不安を取り除くよう、気を配ってくれた先生たちと、付き添ってくれた夫のおかげだ。
手術が終わった日の夜は、穏やかな気持ちでゆっくりと眠りにつくことができた。
筆者紹介:星屋智(ほしやちえ)
ブログ:Heal your energy 心と体を整えるエネルギーヒーリング・エクササイズ・瞑想
2013年から、フィリピン・マニラ在住。現地でヨガインストラクター、オンライン日本語教師として活動。
2021年 乳がんと診断され、手術、治療。治療の過程でエネルギー・ヒーリングと出会う。
2022年 World institute for incurable diseases (WIID)認定エネルギー・ヒーリング アソシエートスペシャリストの資格を取得。
オンラインでエネルギー・ヒーリングのセッションを行っている。