植民地下の朝鮮で貫いた女たちの意志

この本は、朝鮮の独立運動、共産主義運動を女性たちの視点で描いた長編歴史小説です。史実に基づき、運動の実態だけでなく当時の朝鮮と日本の関係やソビエト連邦の政治情勢なども興味深く描かれています。
そのなかでもっとも心を揺さぶられるのは、植民地下の朝鮮で、共産主義思想に共鳴した3人の女性の生き方です。
許貞淑(ホ・ジョンスク)と朱世竹(チュ・セジュク)が出会ったのは、留学先の上海でした。その後2人は、ほかの女性運動家たちとともに朝鮮女性同友会を結成。毛筆と刺繍を得意とする良家の子女、高明子(コ・ミョンジャ)は、この団体の講演会に足を運び、2人と知り合いました。
若く希望にあふれていた女たちは、やがて逮捕され、拷問を受け、あるいは亡命し、長く厳しい状況に置かれます。議論する男たちの横で食事づくりを担当し、男たちの欺瞞性にうんざりしているのは、今の私たちと同じです。20歳で婚期を逃したと言われた当時の朝鮮で、彼女たちはそういう感覚を持っていました。
 3人は運動に関わったことで人生が大きく転換します。じつに過酷な人生です。それでも彼女たちは抗い続けました。モスクワに渡った朱世竹はカザフスタンへと追いやられ、家族から大事に育てられた高明子はたったひとりで最後を迎えます。北朝鮮の平壌に渡った許貞淑は、中国共産党大会に北朝鮮代表団長として出席し、90歳近くまで生きました。
 韓国で4万部のベストセラーを記録したこの本は、作家・北原みのりさんが2021年に立ち上げたアジュマブックスから出版されました。アジュマは、韓国語で中高年女性を示す言葉です。

書誌データ
書名  :三人の女 二十世紀の春 上巻・下巻
著者  :チョ・ソニ(著)、梁澄子(訳)、佐藤優(解説)
頁数  :上巻353頁、下巻353頁
刊行日 :2023年8月15日
出版社 :アジュマブックス
定価  :各2,640円(税込)