全面改訂版が、中公文庫から刊行されました
19年前に一度訳出したモッセの『男のイメージ』の全面改訂版がこのたび中公文庫として刊行されました。
本書は、「『男らしくあるためには、かくあるべし』。西洋文化の中には男らしさについての明確なイメージが広く行きわたってきた。」という文章で始まります。近代社会が自らを定義する基準として引き合いに出してきた男らしさがどのように表象されてきたのか、その歴史を明らかにするものです。特に、男らしさのステレオタイプは、その理想に達しない否定的ステレオタイプによって強化されてきたことにスポットライトを当てています。例えば、男らしさの対極には「ユダヤ人やゲイなど社会によって周辺化された集団」が位置付けられ、否定的なタイプが可視化されてきたことが図像を用いながら、分析されています。
本書で、モッセが描き出した近代的男らしさの特徴と歴史は、現在、基本的に先進諸国では融解する方向に向かっているようにも思われます。しかし、21世紀になって私たちが目にしている二つの戦争において、それはまだまだ健在である、と言わざるを得ないようにも思います。モッセの問題提起は過ぎ去った近代の問題ではなく、今、私たちが経験している課題であり続けています。19年の時を経て、改めてこの本の現代的な意義の大きさを感じているところです。
◆書誌データ
書名 :男のイメージ――男らしさの創造と近代社会
著者 :ジョージ・L・モッセ
翻訳 : 細谷 実 ・ 小玉 亮子 ・海妻 径子
頁数 :384頁
刊行日:2024/3/19
出版社:中央公論新社(中公文庫)
定価 :1430円(税込)