ホロコーストを経験した民族が、なぜ?

イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区を攻撃したとか、イランを空爆したとか。国際ニュースを見ていると、イスラエルはなぜいつも紛争当事者なのかと疑問を抱かずにはいられません。

「イスラエルはなぜ攻撃をやめないのか」
「ホロコーストを経験した民族が、なぜ」
「どんな世界観の中で生きているのか」

 筆者の大治朋子さんは2013年春から2019年秋までの6年半、現地に滞在しながらこうした問いの答えを探し続けました。4年余りを毎日新聞特派員として過ごし、残りの2年余りは会社を休職してイスラエルの二カ所の大学院で研究生活を送り、「謎解き」を続けました。それぞれの大学院では、人間が思考を過激化させるプロセスや、過去の戦争トラウマが人間におよぼす影響などについて研究しました。またホロコースト・サバイバーを支援する公的施設などでも調査を重ねました。
 本書には、こうした現地での取材や特異な経験、研究から大治さんが見た、イスラエル社会の「光」と「闇」が描かれています。記者が現地の声を集めたルポルタージュや、研究者が歴史などから現状を分析した書籍はたくさんありますが、この本の特徴は、大治さんという極めて優れた記者が綿密な取材と大学院での研究から、人々の息づかいと、歴史や集団心理といった専門的な観点からの分析の両方を極めて分かりやすく提示しているところです。
 そこには日常のニュースだけでは分からない、見えない、そして何より戦後80年を迎える日本にも通じる普遍的な課題が隠されています。
 大治さんは、「高校生にも分かりやすく書く」ことを目標にしました。新聞記者経験35年以上の筆が、それを実現しています。

【本書のおもな内容(一部抜粋)】
https://mainichibooks.com/books/social/post-727.html

【目次】

◇第1章 ハマスの攻撃で壊れたイスラエル
「安全神話」が壊れた日/ハマスを過小評価していた/市民を何人殺せるかの計算式/人質がいても戦闘を続ける理由/国民を視野狭窄に陥れるメディア/イスラエル版「FOXニュース」の躍進/約3人に1人がPTSDやうつの症状/暴力的になる子供たち/長引く戦闘で1 年間に約8万人が海外移住

◇第2章 ユダヤの歴史
「選ばれた民」への「約束の地」/反ユダヤ主義という犬笛/弱者にこそ神は宿る/離散の始まり/試練とメシアと終末観/キリスト教徒によるユダヤ人憎悪/イスラムと十字軍による支配/シオニズムの高まりと英国の三枚舌/ホロコーストと建国と新たな離散/トルーマンが建国を後押ししたわけ/在米イスラエル・ロビー誕生の舞台裏/パレスチナの抵抗運動とハマスの誕生/シオニズムの過激化

◇第3章 「光」のイスラエル
●宗教に彩られた一年【お正月のような安息日/家庭でも子供と政治討論/国全体で「ホロコースト」を悼む日/スケープゴート(生けにえ)の日/「祭り」で奴隷時代を思い起こす/光の祭り「ハヌカ」】
●ユダヤ教は「ゆりかごから墓場まで」【人生は宗教儀式から始まる/教育現場での宗教教育/英才教育は小学3年から/中学3年から大学で学ぶ生徒も/軍事技術開発のためのスーパーエリートコース/教育・軍・産業の循環システム/銃と聖書の宣誓式に日本人兵士の姿/ユダヤ人とパレスチナ人が共に学ぶ大学も/結婚と葬儀】

◇第4章 「闇」のイスラエル
「石を投げた」4歳児を拘束/18 歳未満の子供を無期限に拘束/遊んでいた15 歳の少年を射殺/家屋の爆破という集団懲罰/「裏切り者」を「処刑」するハマスのヒットマン/大英帝国のノウハウがお手本/沈黙を破る(ブレイキング・ザ・サイレンス)/兵士は心を守るために感情を封じる/パレスチナ人の自宅を制圧する「訓練」/奇跡的勝利からの入植地拡大/モサド元長官が語ったハマス幹部「暗殺未遂」

◇第5章 変貌するイスラエルの世界観
アイスとアイス/「関心領域」に閉じこもる/二つの力に引き裂かれる/心地良い繭の中で/2000年に起きた意識変革/ハマスによる奇襲を「正当化」/紛争における物語対決/和平に欠かせない草の根の動き/自衛権を拡大的に解釈/「実戦で実証済み」の兵器輸出が急伸/キリスト教福音派からの援護射撃

◇第6章 紛争解決に向けた草の根の取り組み
双方が支え合う遺族の会/「被害者意識の牢獄」からの脱却/「人間の物語」をつむぐ/平和の架け橋プロジェクト/憎しみをたきつける放火魔ではなく消防士に

書 名:「イスラエル人」の世界観
著 者:大治朋子
頁 数:317頁
刊行日:2025年6月26日
出版社:毎日新聞出版
定 価:1980円

「イスラエル人」の世界観

著者:大治 朋子

毎日新聞出版( 2025/06/26 )