
知られざる、日本初の女性フォトグラファー
知られざる女性写真家の物語である。島隆(しま・りゅう、1823-1899)、幕末の江戸下町、日本で初めて「写真師」を名乗った女性だ。
織物業で繁栄し江戸との文化交流も盛んだった上州・桐生に生まれ、寺子屋女師匠のもとで学んで江戸に上り、一橋家の祐筆(書記)をつとめた。そこで出会ったのは4歳下の絵師、島霞谷(しま・かこく、1827-1870)。西洋文明を先取しようとした彼とともに、先端の写真技術を身につけていった。
夫の霞谷はしかし、金属活字の製造に成功した直後に43歳で病没。隆はそれら写真、絵画、印刷活字などの遺品や諸道具類を故郷に持ち帰る。1986年から群馬県桐生市の島家土蔵でタイムカプセルを開けるように膨大多彩な資料が続々と発見されて、日本の写真史、絵画史、印刷史を書き換える大きな話題になった。
霞谷については研究が進み、その多才奇才さで「和製ダ・ビンチ」と称される一方、隆は遺品を保管し残した妻としての功績を中心に語られてきた。
だが実は、隆の方が写真センスはよく、新政府高官から一目置かれて霞谷のマネージメントもしたようだ。帰郷後は桐生でも写真館を開いたりマンガン鉱を売り出したり、村議会に意見書を出したりして〝女丈夫〟と評されていた。晩年に至っても気品ある書を揮毫するなど、気丈に生き抜いたのだ。
私は資料の発見から現在に至るまで、ながく地元紙「桐生タイムス」の記者として隆を追いかけてきた。「霞谷の妻」や「助手」としてではない、日本女性初の「写真師、島隆」である。
同時代の英国にもジュリア・マーガレット・キャメロンが男性中心社会の揶揄にめげず、果敢に写真に取り組んでいた。近年ようやく女性アーティストたちの評価、再発掘が進むが、隆は活躍著しい日本の女性写真家の嚆矢として、海外でも位置付けられている。黎明期を切り拓いた女の一生涯を描くことで、まだまだ埋もれている女性表現者の可能性をみる。世界へ、未来へと繋いでいきたいとおもう。
◆書誌データ
書名 :「写真師 島隆 日本初の女性フォトグラファー」
著者名:蓑﨑昭子
頁数 :272頁
刊行日:2025年9月2日刊
出版社:晧星社
定価 :2750円(税込)
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