高橋史朗さんと対談してみて
 落合恵美子
 高橋史朗さんと対談をしないかという依頼をいただいたときは、正直迷った。「ルネサンス討論会」の「日本が抱える重要な社会的争点について、立場の異なる専門家をお招きし、真正面から議論を交わしていただく討論番組」という趣旨は大事なことだと思う。しかし主催しているダイレクト出版の出版物には懸念をもつ。この動画につけられた広告を見たら懸念はわかるだろう。それでも引き受けてみようと思ったのは、保守派の代表的論客と相まみえる機会は貴重と思ったからだ。毛嫌いしていては始まらない。いったいなぜこうした論点にこれだけこだわっているのか、直接に聞いてみたいと思った。
 実際に対談をしてみた感想は、人が言うような悪人ではまったくないなあ、ということだった。むしろご自分の信じることを素直に主張しておられ、そのためにいろいろな証拠を集めて繰り出してこられる。その証拠はわたしには説得力が無いように思われるものも少なくなかったのだけれど。この対談では高橋さんの私生活も語られ、しっかりと芯の通った奥様をおもちだったこと、その奥様と結婚するときに高橋家に婿養子として入られたこと、だから実家のご兄弟とは苗字が違うけれど、両方の家の先祖を敬っていることなど、いろいろ知ることになった。日常生活の中で普通に出会った方だったら、いろいろ話せる人だな、くらいに思ったかもしれない。そう、わたしたちが日頃、あまり深入りせずに接しているような方とじっくり本音を話したらこういう対談になった、ということなのかもしれない。
 さて、それで対談をしてどうなったか。詳しくは動画を観ていただいたらよいのだけれど、一言で言うと、わたしの話を聞いてくれたけれど、それを受けとめてご自分の考えや主張のしかたを変えることはなかった。討論会なのに討論にならなかった。普通の対話は学会の討論のようにはならない、ということか。しかし「論客」とお話してるはずなのに、おかしいな。
 はっきりしたのは、高橋さんが守りたい家族とは、子どもを中心とする「核家族」だということだ。わたしの言葉では「近代家族」。欧米社会を中心に日本などにも成立した「20世紀体制」の家族、という言い方を近頃はしている(落合『親密圏と公共圏の社会学』)。いわゆる伝統的な「家」はどうしたのですか、とちゃちゃを入れると、先祖との縦の繋がりが日本の家族では重要だとおっしゃるのだけれど、強く念頭にあるのはアメリカの保守派と共通するような愛情で結ばれた核家族。20世紀の「先進国」の社会を変えまいとする”グローバル保守主義“の成立を確認できた思いがする。統一教会もこの文脈で語れるのではと思うが、それは別の機会に。
 高橋さんと意外に話が合ってしまう場面もあって、家族が潰れないように、家族だけに負担を押し付けずに国やらいろいろな人たちが支えないといけないというと、賛成だとおっしゃる。それなら「家族が」と言い過ぎない方がいいですよ、と言ってみたが、そこは響いたのかどうか。
 この討論会を観た「保守派」の方たちに、こうしたテーマについて一歩引いてよく考えてみてほしいと思って出演し、「保守派」の方たちが気になっているはずの言葉をあえて使ってお話したつもりだったが、やっぱり響かないのかな、というのが、コメント欄などを見た感想だ。とはいえ「保守派」の周りにいる方たち、「やや保守」や「中間派」くらいの方たちには、届いたかもしれない。
 ちょうどこの層に読んでいただきたいと思い、新幹線のグリーン車に置いてあるWedgeにも寄稿させていただいた。こちらは見知らぬ方から読んだという感想を寄せていただいたりしている。「保守派」を嫌って切り捨てるのではなく、これからも糸口を探って対話してみたい。「日本」についてしっかり語れるようになるのも大事な時代だ。
 最後に、Wedgeの記事を高橋史朗さんにもお送りした。「有難うございます。熟読させていただきます。」という丁寧なお返事をいただいた。どうだろう、今度は届くだろうか。

落合恵美子さんご出演の "討論"番組 はこちら
夫婦同姓は日本の伝統じゃない?!家族・教育・社会の多様性の是非③
https://www.youtube.com/watch?v=qHYvrHZQEKQ
シリーズ①②④【家族・教育・社会の多様性の是非】もYouTubeで視聴できます。

Wedge(JR新幹線の車内誌)掲載記事:
「選択的夫婦別姓制度の議論をしている人に伝えたいこと」
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/39660