何の疑問もない「普通」の生活

※書籍から「はじめに」を転載しています。

大学生の頃からひとりの「女性」と一緒に住んでいる。ルームシェアは今年で二十年になった。「女性」として生活しながら、「女性」として生活している人と一緒に住んでいると、色々な質問を受ける。―彼氏ができたら気まずくない?いつまで一緒に住むの?結婚しないの?子供は?将来どうするの?いつか養子縁組とかするの?親は何も言わないの?
それらは全て、「女性」と「男性」の組み合わせなら聞かれなかったことだろう。「女性」と「男性」の組み合わせなら、「もちろん」恋人関係であり、「もちろん」一緒に住むことにリミットはなく、「もちろん」結婚するに決まっていて、「もちろん」子供も生まれ、「もちろん」親も喜ぶものとして処理されることだろう。
質問されるたび、「女性」と「女性」の関係は「完全形」と見做されていないことを実感する。何の疑問も持たれない「完全形」とは、「女性」と「男性」の組み合わせが、恋愛をし、法的に結婚し、子供をもうけているかゆくゆくはもうける予定であるという状態なのだと。そうでない状態は「未満」になるのだと。そして、繰り返し質問されることで、答える自分自身にもその「普通」が刷り込まれていることを発見する。
そういった「普通」を跳ねのけるべきだと言うのはとても簡単だ。私もそう思う。誰もが任意の人とともに、あるいは自分ひとりで、何も制限されることなく、暮らしたいと思うように暮らせるべきである。そんなことは分かっている。この本を手に取ったあなたも、きっとそんなことは分かっているだろう。そしてそんな分かりきったことでさえ、日常生活の中で「普通」にさらされるうちに簡単にゆらぐということも、また分かりきっている。
この本は、私自身がルームメイトとの暮らしの中で体験したことをベースに描いた/書いた(ほぼ)実録漫画である。私が生活の中で感じた戸惑いに当てはまる人もいれば、当てはまらない人もいるだろう。だけど当てはまらない人も、同じ「普通」があふれかえる社会に生きている以上、どこかで同じゆらぎに遭遇するかもしれない。そんなとき、あなたの住む街の隣の隣の隣のどこかの街で、こんなルームシェアが繰り広げられていることを思い出してもらえるとうれしい。ちょっといらっとしたり、めちゃくちゃ怒っているのに思わず笑ってしまうような、「普通」の生活があることを。
(本書の漫画とコラムは、すべてルームメイトの確認・了承を得たうえで描いて/書いています。)


【もくじ】
1 ずっとこのままでいいのかな?~ルームシェア8年目~
2 ルームシェアは突然に~ルームシェア0年目~
3 「住んでもいい」場所~ルームシェア14年目~
4 ルームシェアは終わらない~ルームシェア15年目~


◆書誌データ
書名 :『帰りに牛乳買ってきて』
著者 :はらだ有彩
頁数 :208頁
刊行日:2025/11/21
出版社:柏書房
定価 :1,540円(税込)

帰りに牛乳買ってきて 女ふたり暮らし、ただいま20年目。

著者:はらだ 有彩

柏書房( 2025/11/26 )