
遊女と聞いて思い浮かべるのは、映画やドラマの影響もあって、近世以降の、張見世のある妓楼に暮らす姿でしょうか。歌舞伎の人気演目「助六」や「籠釣瓶」などの舞台セットは、艶やかで、遊廓イメージそのものです。
しかし、じつは近世より前の遊女は、ちがったあり方をしていました。天皇と流行歌をうたったり、大きな街道沿いで宿屋を経営したり…。意外です。それが、のちに、ひとつの地域に集住して、塀で囲われる場所に閉じ込められてしまうようになったのはなぜでしょうか。本書では、中世期を通じて、遊女の立場や遊女へのまなざしが変化していき、16世紀に遊廓という場所・しくみが誕生した理由を検討します。
丁寧に変化を確認する、実直な歴史研究です。近世以降の遊女のあり方についてはあまり触れていませんが、近代の公娼制度や、現代の性風俗産業へ連続している側面への指摘が興味深いです。中世の遊女のあり方を「意外」と感じるわたし自身に内包されているものが、もしも近世を生きていたなら遊廓というものを支えてしまったのではないかと気づきました。
遊女のあり方や、遊廓というしくみが、いかに社会を反映し、市井に暮らす普通の人びとによって維持されてきたのか、どうぞ知っていただきたいと思います。ながい時間軸のなかで物事を考えることができるのが歴史学の魅力だと、あらためて感じました。
◆本書の目次
中世から遊廓を考える―プロローグ
中世遊女の仕事風景
性売買の登場
遊女の宿屋
歌う遊女たち
遊女の性売買
遊女と貴族
中世遊女をとりまく人びと
遊女の仲間たち
遊女の従者
遊女の婚姻と家族
性売買の主軸化
芸能から性売買へ
遊女をめぐるまなざしの変容
客の変容
遊女屋経営者の変容
経営権の喪失
人身売買の開始
遊女屋集団の登場
遊廓の形成
遊女屋の隔離
遊女屋集団の動向
二分される女性たち
遊廓の形成を考える
近世・近代遊廓への展望―エピローグ
◆書誌データ
書 名:遊女の中世史―遊廓はいかに生まれたのか
著 者:辻 浩和
頁 数:238頁
刊行日:2026年1月
出版社:吉川弘文館
定 価:1,980円(税込)










