
著者李小江氏は、鄭州大学で教鞭をとっていた時の1983年、民間女性研究団体「女性学会」を設立し、『婦女研究叢書』の創刊など、中国における女性学のパイオニア的存在であった。その後、80年代、90年代の活躍は目覚ましく、国際的にも多くの国の女性学研究者と交流を深め、西洋の学者たちからは、「中国のシモーヌ・ド・ボーヴォワール」と呼ばれるようにもなった。
しかし、本書は女性学に関するものではない。1996年、李小江氏は突如華やかな活躍の舞台から身を引き、各地を転々としつつひとり静かな生活に入り、新たな研究を模索していた。お茶の水女子大学、奈良女子大学に招聘教授として長期滞在する中で、日本歴史、日本社会、日本人への関心が深まる。この日本滞在における見聞と日本社会の分析の成果がこの『結(ゆい)社会 日本』(原題《日本結》、社会科学文献出版社、2019年)である。
本書はまず自己の研究スタイルが通じない日本という社会の中で閉塞感を抱くことから始まる。つまり、中国での社会調査の常識である「三同」(「同じものを食べ、同じところに住み、同じように労働する」)が必要とされず、外国人が入り込めない日本人の「結(ゆい)」関係、日本人の「世間」という場空間などに戸惑う。せっかく身に着けてきた日本語もほぼ必要がない「外人」という立場に置かされてしまう。そして、その自分がぶちあたった「日本社会の特質」に大きな研究の糸口を見出してゆくのである。
上篇では、日本人の生存方式の様相を分析、中篇では、日本民族の性格と行動を社会と文化の面から指摘、下篇では、「日本」から学ぶべき教訓があるとすれば…、と詳細に論じられてゆく。それらの中に通底する日本社会の「結(ゆい)」という結束帯……。
近年ではずいぶんと希薄化してきている「結(ゆい)関係」ではあるが、訳者の世代はそれをさほど抵抗もなく看過してきたのは年齢のなせるものか。著者の拘りと分析とに改めてその歴史的な経緯と意味に気づかされる。とまれ、この中国人女性研究者の日本論、日本人論には、得るもの学ぶものが少なくない。著者は2025年2月12日、大連にて急逝された。この『結(ゆい)社会 日本』の次に、日本と中国を比較の視点でそれぞれの社会を論じてもらうことができないのが返す返すも残念である。
<目次>
まえがき
はじめに
上篇 大和絆 日本の「間人」という生存方式
一 宿命:天縁と地縁 —日本人と自然との関係
二 身分:家と系譜 —日本人の出生と成長
三 帰属:藩と部活 —日本人の社会化過程
中篇 民族の性格 日本の「世間」の深層分析
一 社会の特性 —集団主義
二 文化の特性 —受容主義
下篇 「日本」の教訓 歴史の行為と現実の選択
一 「僭越—分を超える挑戦—」の教訓
二 「収斂—節度ある自制―」の知恵
おわりに 不自由ながらも、のびのびと生きる
日本語版解説 上野千鶴子
訳者あとがき
書誌データ
書名 :『結(ゆい)社会 日本』
著者 :李小江
訳者 :吉村澄代
解説 :上野千鶴子
頁数 :575頁
刊行日:2026年3月26日
出版社:(株)かもがわ出版
定価 :本体3000円+税










